本はおもしろいものだといふことを体験させること、本を読む癖をつけること、それが大事だ。その味を覚えさへすればしめたもので、彼らは将来、西洋十九世紀の長編小説も、天文学も、ケインズ理論も、コンピューターの本も、読むやうになるかもしれない。読書感想文を無理やり書かせることでその可能性をつぶしてしまふのは、教育者として正しい態度ではない。
 読書感想文といふのは一種の書評である。そして書評がどんなにむづかしいかは、海千山千の文筆業者がさんざん苦労して、なかなかうまく書けないのを見てもわかる。一冊の本といふ厖大で複雑なものを短い文章で紹介し論評するのは、郵便切手の裏に町全体の地図を書くくらゐ大変なのである。そんな芸当を子供に強制することは、角兵衛獅子の親方だつてしなかった。