雇用 生きがい重視の産業構造を
――新型コロナ禍で弱い立場の非正規雇用の人たちから仕事が切られています。企業の責任をどう考えますか。
「雇用をキープしてくれというのは国も経団連も呼びかけているけれど、倒産しては雇用の維持もできません」
「競争力を上げるために非正規社員を増やし、『雇用調整弁』にするのは、サステイナブル(持続可能)な話ではない。『ここで働くことが人生の実現にとって意味がある』と働く人が感じられなければ、本気で仕事に取り組むという格好にならないと思う。個人が本気になって取り組むような知識集約型の産業にしていかないと、日本のような資源のない小さい国は生きていけないんです。本気で企業競争力をつけようと考えている企業にとっては、単純に労働コストを抑えることは課題の中心ではありません」
――産業構造を変えていくときに、取りこぼされる人が必ず出てきます。
「それはもう、セーフティーネットを作らなきゃいけない」
――企業はその役割を果たせますか。
「もう果たせないでしょうね。全員が知識集約型産業の先端を担える人材には、たぶんなり得ない。大きな組織では20%の人はちゃんとやるけど、20%の人はできない。ちゃんとやらない20%の人をカットすると、また無理な人が20%出てくる。切り捨てられる人を全部企業が抱え込むという話ではない」
「(職業訓練といった)再教育などを社会として考えなければならない。いきなりベーシックインカムを導入しても、あまりうまくいかないでしょう。その人たちが最低限の生活保障をされればハッピーになるかといったら、そうでもない。仕事でやりがいを感じられるような、生きる仕組みを社会で作っていかなければならない。いろんな工夫がいると思いますよね」
――経団連も感染予防対策のガイドラインを出しました。飲食店で客が1席あけて座れば、売り上げが落ちます。雇用への影響は?
「経営者が新しいビジネスに変えていく工夫をし、政府が出てきて支援しなくちゃいけない。単純にソーシャルディスタンシングをやれというだけでは足りません」
――産業の構造転換は痛みを伴うのでは。
「そう思いますけれどもね。大体人間というのは、変えろって言われて『はい』って変える人はほとんどいませんよ」
気候変動 経済性より優先度がはるかに上がった
――会長は様々な場面で気候変動問題のことを語られています。きっかけは。
「私は『石炭火力を一番たくさん売った男』なんです。日立パワーヨーロッパ社(現三菱日立パワーシステムズヨーロッパ社)という会社をつくって、ドイツ、オランダ、ポーランド、あの辺で80万キロワットクラスの石炭火力発電所を十数基つくったし、南アフリカでもインドでも」
「それが、(石炭火力を)売りに行くと『ちょっとこの石炭のやつを提案書からとってください』と言われるようになった。福島(第一原子力発電所事故)があって、ドイツが原発全廃の宣言をして、石炭火力に対しても風向きが厳しくなってきた。2012、13年ごろかな。欧州では、ついこの間まで『(石炭火力を)早くつくれ早くつくれ』って言っていたお客さんたちが『これでもうおしまい!』という感じになった」
――石炭火力の輸出で、政府は…(以下有料版で、残り2686文字)
朝日新聞 2020/7/3 19:00
http://www.asahi.com/articles/ASN6Y6VTLN6PULBJ002.html?ref=tw_asahi