やまない雨が泥水をあふれさせ、九州各地の暮らしをのみ込んだ。福岡、佐賀、長崎3県には7日昼まで19時間にわたり大雨特別警報が出され、土砂災害や冠水が続出。避難所の小学校にも泥水が流れ込んだ。大分県では鉄路が流され、筑後川の氾濫も。4日の豪雨被害の全容が判明していない熊本県では、集落の孤立解消を阻む。「一体いつまで降るのか」。拡大する被害に、人々は唇をかんだ。

 「家の中に水が…自分じゃ避難できん」。降り続く雨に刻々と水位を増す自宅内から、助けを求め2度電話した。周辺道路が冠水し、孤立状態に陥った福岡県大牟田市の三川地区。1人暮らしの田中春子さん(87)=同市樋口町=は、最初の電話から4時間半後に消防隊が駆け付けたときには手遅れとなっていた。

 大牟田市消防本部によると、最初の電話は6日午後7時半ごろ。浸水被害を訴えた後、「大丈夫でしょうか」と尋ねてきたという。同本部にはその夜、300件を超える救助要請が相次いでおり、当時は出動可能な署員はいなかった。

 その30分後、田中さんから再び電話があった。消防隊が自宅に向かうと既に車では近づけず、ボートを取りに戻ることに。周辺は2メートル以上冠水したところもあり、平屋の家は屋根しか見えない状況だった。潜水隊が泥水をかき分けて入室。午前0時前、天井近くでうつぶせの状態で浮いている田中さんを見つけた。その1時間後、搬送先の病院で死亡が確認された。田中さんを知る近所の女性(72)は「デイサービスの車から降りるのを何度か見たが、足が不自由そうだった。かわいそうに」と話した。

 一方、同じ三川地区では、孤立した市立みなと小(258人)から下校できなくなった児童22人と教職員20人が、避難してきた周辺住民82人とともに不安な一夜を明かした。

 同小は雨が強まった6日午後3時前、保護者に一斉メールで児童の迎えを要請したが、水位が一気に上がり、一部の児童は校内に残らざるを得なくなった。

 馬籠秀典校長(56)によると、1階では昇降口のげた箱や教室の机がぷかぷかと浮き、午後5時すぎには全館が停電。2階の2室に分かれて避難した子どもたちは、真っ暗な中で蒸し暑さに耐えながら、おにぎりやパンを食べて過ごした。夜、1人の1年生児童が「怖い」と泣いたが、教諭が「大丈夫。怖くないよ」と励まし続けたという。

 7日朝、自衛隊員が引くボートで救助された5年生の柿原嘉乃さん(10)は「真っ暗だったけど怖くはなかった」と気丈に話した。

生後2か月の赤ちゃん救助

 みなと小近くの自宅1階が水に漬かって外に出られず、家族9人が2階で一夜を明かしたという小柳聖子さん(39)も、生後2カ月の娘の穂華(ほのか)ちゃんとともにボートで救助され、笑顔を見せた。

(森竜太郎、吉田賢治)

西日本新聞 2020/7/8 6:02
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/624033/