執筆:ジェームス・バーダマン


今年の5月25日、ジョージ・フロイドは偽札使用の容疑で拘束され、手錠をかけられたまま警察官により頸部を膝で圧迫され窒息死した。

この殺人事件は、6年前に警察官による締め技で窒息死したエリック・ガーナーの時と同じように、
"Black Lives Matter"(黒人の命は大切だ)*というメッセージを掲げた大規模な抗議活動の引き金となった。

半世紀以上前、全米に公民権運動が広がった時代と何も変わっていないことに暗澹たる気持ちになる。
この半世紀は一体何だったのか。なぜ黒人アメリカ人と白人アメリカ人の対立はこれほどまでに激しく、根深いのか。


アメリカでは「法による平等な保護」は憲法修正条項により保障されている。しかし、白人と黒人の間には明らかな差別がある。

街頭で何もしていないのに、職務質問、身体検査をされ、さらにIDの提示まで求められる白人はまずいない。
車を運転していて、たまたまテールランプが切れていたら、白人の場合、注意くらいで済むだろうが、
黒人であれば、車から降りるように「命令」され、車の中が「捜索」され、更に「身体検査」をされるだろう。

同じ微罪を犯したとしても、黒人は白人よりはるかに刑期が長くなる。 

ドキュメンタリー『13th――憲法修正第13条』では、刑務所が一つのビジネス、産軍複合体ならぬ産獄複合体と化していることを告発している。

刑務所が利益を上げるためには、常に刑務所を犯罪者で満たしておく必要があり、
前科二犯の者は、たとえ微罪でも3度目は終身刑になるという「三振法」が有効に活用されているわけである。

ターゲットはもちろん黒人だ。ある弁護士は、アメリカの黒人男性の三人に一人は刑務所に入った経験があると語っているが、
受刑者に労働を強制し、その利益を搾取するという意味では現代の奴隷制と言ってもいいだろう。

「法による平等な保護」などまったく保障されていないのが現実である。

Black Lives Matter――このスローガンの背後には、踏みにじられ消された数知れぬ黒人の命がある。
抑圧され続けている黒人の生活がある。そして否定され続けている黒人の人生がある。

このスローガンの根底にあるのは、アメリカの黒人の歴史が無視され、
基本的人権を持った一個の人間として扱われてこなかったこと、そして今も扱われていない現実への悲嘆と怒りだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73862