事前に記者から質問を集め、想定問答を読み上げるスタイルに批判を浴びてきた安倍晋三首相の記者会見。
8月6日の広島での会見では、事前通告のない質問をする記者を官邸職員が妨害して制止。
ついに質問妨害が、実力行使に発展した。

(中略)
原爆投下から75年を迎えた8月6日。広島で行われた安倍晋三首相の記者会見での出来事だ。

 首相側は事前に準備された4つの幹事社質問への答弁の「台本」を読み上げて、15分あまりで記者会見を一方的に打ち切ろうとした。

 首相の正式な記者会見は49日ぶり。官邸記者クラブ(内閣記者会)は、幹事社以外の質問にも応じるよう、首相側に求めていた。
待ちわびていた記者から次々と声があがり、安倍首相が「節目、節目で会見をさせていただきたい」とその一部にだけ答えて、終わろうとしたときだ。

「ダメだよ、もう。終わり、終わり」

 質問を続けていた朝日新聞記者が官邸報道室の職員に制止され、腕をつかまれたのだ。

 この記者は自席から冷静に質問を重ねていた。その質問内容はどのようなものだったか。
「なぜ50日近く十分に時間を取った正式な会見を開かないんでしょうか」
「(今日の会見時間は)十分な時間だとお考えでしょうか」
「(国会の)閉会中審査には出られるのでしょうか」

 いずれも国民・市民の疑問を反映したまっとうなものだった。
それを制止してきた官邸側の対応は、「報道の自由」や国民・市民の「知る権利」を侵害する行為だった。

(中略)
 新聞労連も7日に官邸に抗議する声明を出したが、驚いたのは、産経新聞が8日付朝刊に掲載した1面コラム「産経抄」だ。

「官邸側が高圧的に都合の悪い質問をやめさせたような印象を受けるが、実際はどうだったか」

 筆者はそのように疑問を投げかけ、「報道室は4問のみ受け付けると告知していた」
「空港への移動時刻が迫っていた」「腕をつかんだことも否定している」といった官邸側の主張を列記。

朝日新聞や毎日新聞の記者が安倍首相に食い下がって質疑に挑んだ例をあげて、
「マスコミは性悪だ」「底が浅すぎて、下心が丸見え」と中傷したのだ。

 記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、国民・市民の「知る権利」を保障するための大切な営みだ。
しかし、官邸の記者会見を巡っては近年、事前通告された質問だけで終了したり、
官邸の意に沿わない記者の質問を妨害したりすることが繰り返されてきた。

 東京新聞の望月衣塑子記者の質問中に、上村秀紀・官邸報道室長(当時)が7〜8秒ごとに
「簡潔にしてください」などと妨害行為を行っていたのが象徴的である。
そして、緊急事態宣言を理由に狭めた「1社1人」という人数制限を宣言解除後も続け、望月記者らの参加自体も封じるようになっている。

こうした「報道の自由」や「知る権利」の危機において、
官邸記者クラブが結束して対抗することを妨げてきた正体を示したのが、8日付の産経抄だ。
このコラムに守られるように、9日に行われた長崎市での首相記者会見では、
官邸側は事前に準備された幹事社質問の2問に答えただけで打ち切った。まるで戦前の「大本営発表」のようだった。

(中略)
第2次世界大戦中、準統制団体である「日本新聞会」のもとで記者登録制が敷かれ、自由な報道や取材活動が大きく制限された。
1942年3月に策定された「日本新聞会記者規定」では、「国体を明確に把持し公正廉直の者」が資格条件になっていた。
こうして政権に疑問を差し挟む記者が排除され、報道は「大本営発表」に染まった。
日本メディアは政権の「共犯者」となり、多くの国民・市民の平和な生活と人権を打ち砕いたのである
。75年前の戦争に思いをはせる8月。この過ちを決して繰り返してはいけない。

全文
https://news.yahoo.co.jp/articles/674d8970d3170bcde67a38dc6b8be7441da6fe2e?page=1