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織田信長が琵琶湖近くに築いた安土城の天主(天守)を「復元」するプロジェクトを、滋賀県が進めている。
三日月大造知事は意欲的だが、実際に城を再建する場合、安土桃山時代に築かれた当時の姿を伝える史料は乏しく、
建築費も巨額で実現は容易ではない。完成わずか3年で焼失した「幻の城」。果たして再建なるか。

2026年の安土城築城450年祭に向けた目玉として、県が「『幻の安土城』復元プロジェクト」を立ち上げたのは昨年4月。
「安土城を目に見える形で復元し、発信する」とうたう。

安土城跡(近江八幡市安土町)で天主を再建するとなると、まず問題となるのは設計図だ。加賀藩御用大工だった家に伝わる図面
「天守指図」を基に故・内藤昌名古屋工業大名誉教授が1976年に発表した復元案など、天主の構造は長年考察されてきたが、史料は乏しい。

信長の旧臣が記した「信長公記」などで、天主が地上6階、地下1階だったことは分かっているが、信長が狩野永徳に描かせ、
ローマ教皇に送り届けたとされる「安土山図屏風(びょうぶ)」は今も見つかっていない。

もう一つの問題は費用だ。名古屋市はコンクリート製の名古屋城天守を木造で建て直す計画を進めている。事業費は505億円。
安土城の場合、木造だと名古屋城と同額程度がかかると県は見ており、コンクリート造でも約300億円かかると滋賀経済産業協会が概算している。

安土城のような特別史跡で城を再建する場合、文化庁は「史料に基づいた復元か」「遺構を保存できているか」など厳しい基準を設けており、ハードルはかなり高い。

そんな中、県が注目するのが、コンピューターグラフィックス(CG)による仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といったデジタル技術で視覚化するプランだ。
この案は近江八幡市がすでに2012年と14年に実現させている。城跡近くにある「安土城天主信長の館」では15分のCG映像も鑑賞できる。

記者は7月、安土城跡を歩いた。石段「大手道」の両脇に信長が築いた当時の石垣が広がり、天主跡の石垣に上がると、
かつて湖だった干拓地が一望できた。壮麗なCG映像を脳内で重ね合わせると、城の威容を感じることができた。

「信長と家臣団の城」などの著書がある中井均・滋賀県立大教授は「木造で建てれば『正しい』と考える市民は多いが、現代技術を使えば、
それは復元ではない。石垣など城跡に残る本物をいかに見せるかに知恵を絞った方が良い」とCGを使ったデジタル復元と現在の遺構を
重ね合わせて楽しめる仕組み作りがベストだとする。


県民の意見は割れている。県が7月に行ったアンケートでは、現状維持を求める声が29・6%と最多だったが、
天主など建物復元を求める声も24・2%と同程度あった。

県は、実物を建築する案からCGでの復元まで4案について、ホームページなどで意見を募っており、11月には方向性を決める。
現実か仮想か、どんな城が登場するのだろうか。

近江八幡市がコンピューターグラフィックスで再現した安土城天主
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