16日午後に開かれる衆院本会議の首相指名選挙で第99代首相に選出される自民党の菅義偉総裁(71)。官房長官時代は記者会見でのやりとりが注目を集めた。安倍政権の数々の疑惑に「全く問題ない」「そのような指摘は当たらない」と、まともに答えない局面も目立ち、「菅話法」「鉄壁」とも呼ばれた。政権のスポークスマンだった官房長官からトップの首相に立場が変わり、国民にどう語りかけるのか−。(三輪喜人)

◆「全く指摘は当たらない」
 「政府の立場や見解を正確に発信する貴重な機会。しっかり準備し、丁寧に誠実に臨んできた」。官房長官として最後の定例会見となった14日、菅氏は会見での心構えをこう振り返った。
 2012年12月に発足した第2次安倍政権で、歴代最長となる7年8カ月、政権のスポークスマンを務めた。任期中には、森友・加計問題や河井克行前法務大臣の逮捕といった閣僚、自民党議員の不祥事もたびたび発生。「丁寧に誠実に」との言葉とは裏腹に、疑惑を突き放したり真正面から答えないことも多かった。
 17年5月、加計学園の獣医学部新設問題で、「総理のご意向」などと書かれた文書が発覚した際に、菅氏は記者会見で「まったく怪文書みたいな文書じゃないでしょうか。出どころも明確になっていない」と断言した。
 その後、前川喜平・文部科学省元事務次官が文書は本物で、「行政がゆがめられた」と報道機関に証言。会見で問われた菅氏は「行政がゆがめられたということは、全く指摘は当たらない」と言い切った。
 しかし、「怪文書」と断じた文書は文科省の再調査で見つかり釈明に追われた。

◆言葉を使わずかわす手法
 学習院大の平野浩教授(政治心理学)は「できるだけ言葉を使わず、かわす手法だ」と指摘。政権に問題があったときに会見で批判的な質問から防御する局面で、菅話法がクローズアップされるといい、安倍政権の中盤から後半にかけて問題から守る際にしばしばみられたという。

 17年7月、安倍晋三首相が東京都議選の応援演説で「こんな人たちには負けない」と発言。「有権者を軽視するかのような発言に問題はないか」との質問が会見で出ると菅氏は「全くあるとは思いません」と語気を強めた。「極めて常識的な発言だ」と述べた。
 19年9月、河井克行衆院議員が法務大臣で初入閣した翌日、河井議員がパワハラやセクハラ疑惑が週刊誌で報道されていたことについて問われると、菅氏は「本人が否定しているので全く問題がない」と擁護した。
 平野さんは、「全く問題ない」「指摘は当たらない」と発言するときに納得できる理由や根拠が示されることは少ないとして、「政府の代理人として、安倍首相に直接影響が及ばないように、自分が盾になって国民から嫌われてもいいという意識があったかもしれない」とみる。

◆国民に説明責任
 菅氏は14日、自民党の新総裁に選ばれた後に臨んだ会見で、衆院の解散について問われると、「官房長官の時は、総理大臣がやるって言えばやる、やらなけりゃやらないというような乱暴な発言をしてましたけれども」と、かつての自身の発言を「乱暴」と振り返った。
 これから首相になれば、代理人だった官房長官とは異なり、当事者として話さなければならなくなる。平野さんは「歴代の総理大臣は、記者の先に国民がいると思ってしゃべっている。いまは、苦労人としての経歴を語っているが、国会の質疑や会見で問われたことに正面から応じるか、正念場だ。理由や理屈をつけて自分の考えを述べてほしい」と話した。

東京新聞 2020年9月16日 10時44分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/55822