菅政権発足 潮目変わったコロナ禍、政策再検討を

岩村充・早稲田大教授に聞く


第99代の首相に選出された菅義偉内閣がスタートした。新型コロナウイルスの収束が見えず、日本経済が極めて厳しい状況下での船出となる。
新政権と企業経営者の課題は何か。

日銀OBの岩村充・早稲田大教授は「コロナ禍だけでは恐慌は起こらない。新型コロナ流行の潮目の変わった今こそ経済・企業戦略を再検討すべきだ」と説いている。


――実体経済の落ち込みが深刻です。4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率27.8%減と戦後最悪に落ち込みました。
法人企業景気予測調査(7〜9月期)は、2020年度の設備投資額は前年度比6.8%減の見込みで、
前回調査(4.4%減)から下振れしています。機械器具やサービス業は2桁減です。

「恐慌は根拠の無い楽観や粗雑な願望が裏切られ、恐怖心が自己増殖したときに起こります。1930年代の世界恐慌では、
人々の心の弱気化が株式市場の急落となって先行し、実体経済が追随しました。今回は実体経済の急激な落ち込みにもかかわらず、株式相場は踏みとどまっています。
経済活動の外から生じた脅威であるという認識があるからでしょう」

「今回のコロナ禍は世界経済を急停止に追い込みましたが、その打撃は蓄積の乏しい新興国で深刻です。
円、ドル、ユーロなど先進国通貨が底堅いのは、両者の蓄積の差がもたらす国際的な交易条件の変化が一時的に先進国側に有利に傾いたためだと思います。
しかし、そうした現状に安住して、あとはワクチンが開発されればコロナ以前の繁栄が戻って来るかのような幻想を抱いてしまうと、
開発が遅延したり重大な副作用が発見されたりしたときの衝撃が大きくなり、パニックが生じかねません」


――菅新内閣が最初に取り組むべき経済政策は何だと考えますか。年内に第3次補正予算の可能性も指摘されています。

「対コロナ政策のあり方を再検討することが、新政権の使命でしょう。新型コロナによる被害状況は国や地域によって最初から大きな差がありました。
日本を含む東アジアの単位人口当たり死亡者は欧米の数十分の一以下です。

しかも、7月以降の日本や欧州では、感染者数は急増したにもかかわらず、死者数はほとんど増えていません。
そうした実態を無視して感染拡大の脅威ばかりを叫ぶことは、長い眼で見れば、リスクにもなりかねません」


――具体的には、どこに重点を置きますか。

「ウイルス感染症は、ワクチンや治療薬の開発だけでなく、ウイルス自体の弱毒化によっても収束する可能性があります。
それまでの時間稼ぎという意味では、人と人との接触抑制を軸にする政府の対策は正しい方向だったと思います。

一方、検査を大幅に拡充して厳しく隔離すれば、ウイルスの脅威が残っても成長が戻ってくると考えるのは錯覚です。
PCR検査は治療のためのもので感染者隔離のためのものではないはずです。国民あるいは希望者全員の検査などという体制を目指すのは、
感染症対策資源の無駄遣いだけでなく、日本を暗い監視社会に導くきっかけにもなりかねません」
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO6380851014092020000000