「大阪都構想」の賛否を問う2度目の住民投票(11月1日)まで1週間を切り、賛成・反対両派の運動は激しさを増す。史上初めて政令市がなくなるのか、存続か―。大阪の街は地方自治のあり方を決める重い選択の岐路に立っている。

 秋晴れが広がる24日午後、大阪市東淀川区のスーパー前。「大阪が一つになって経済を成長させ、みなさんの医療、福祉、教育を手厚く支援できる態勢をつくりたい」。大阪市長で大阪維新の会の松井一郎代表が、声を張り上げた。

 巨大なパネルを使って、大阪府と大阪市が競い合って同じような施設に投資してきた過去を二重行政の無駄と指弾。府が成長分野の企業支援や広域交通網整備などを担い、大阪市を廃止し新設する4特別区が身近な住民サービスに専念する都構想の必要性を説いた。

 同じころ、反対の論陣を張る自民党府連は同市中央区で住民説明会を開いていた。党市議団の北野妙子幹事長は、府に税が吸い上げられ、特別区が自由に使える財源は減り、水道料金の値上げなど住民サービスが低下する恐れがあると訴えた。「自分たちの街のことを自分たちで決められなくなる。大阪市がなくなるという現実が問われている」

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 前回2015年の住民投票は、反対70万5585票、賛成69万4844票のわずか1万741票差で否決された。維新にとっては「一丁目一番地」の看板政策が再び否決となれば大きな痛手。市内選出の府議や市議約60人を中心にフル回転するが、都構想を提唱した維新の創始者、橋下徹元市長が前回の住民投票後に政界を去り、コロナ禍もあってか「市民に前回ほどの熱はない」(維新関係者)。

 住民投票の有権者は約224万人。前回は市による説明会が39回開かれ3万2千人が参加したが、今回はコロナ対策を踏まえ、8回の開催で参加者は4千人。オンライン説明会も実施したが、「説明不足のまま、大きな手術の是非を問うていいんか」と市内の男性(65)はつぶやく。

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 「不安をあおりすぎだ」「それはミスリードだ」―。賛否両派がそろった討論会では、決まってこんな応酬が繰り広げられる。互いに相手の主張に根拠が乏しいと指摘し、議論はかみ合わず、市民の多くは態度を決めかねている。

 24日午後、同市浪速区。賛成派の「顔」、府知事で維新の吉村洋文代表代行がマイクを握ると、あっという間に100人超の人だかりができた。「都構想、そんなに難しい話ではありません。今回否決になったら、昔の府市の関係に戻るだけ。二重行政か都構想か、どっちが大阪の可能性を追求できますか」。同市西区の主婦(38)が大きくうなずく。その傍らで男性が手を挙げた。「パンフレットにはメリットばかり書いてあるが、確約できるんですか」

 決戦に向け、市内の駅前では朝夕、賛否両派がビラを配り、街宣車が行き交う。同市大正区の駅前で双方のチラシを受け取ったパート従業員女性(77)は戸惑う。「言うことが正反対。どっちがホンマか分からん。最後まで迷うやろな」 (豊福幸子)

西日本新聞  2020/10/26 8:00 (2020/10/26 13:27 更新)
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