いよいよ11月3日に迫るアメリカ大統領選。トランプとバイデン、軍配はどちらにあがるのか──世界中が注目するこの決戦を前に、スペイン「エル・パイス」紙が歴史家のニーアル・ファーガソンにインタビューした。

ニーアル・ファーガソンは、世界屈指の知名度と影響力を誇る歴史家だ。スタンフォード大学とハーバード大学の教授を務め、ヘンリー・キッシンジャーの伝記を書いたことでも知られる彼は、これまでに外交政策、経済史、英米帝国主義に関する15冊の著作を発表している。

保守主義の立場からバラク・オバマ政権を激しく批判し、共和党のジョン・マケイン議員の大統領選顧問も務めた。彼は1989年の夏にベルリン旅行をしたあと、ベルリンの壁崩壊を予言した。著書『マネーの進化史』(2008年)執筆に向けて調査に当たっていた2007年には、ラスベガスで開催された会議で、5年以内に不況が起こるか否かをめぐり財界人の一人と賭けをし、「起こる」に賭けて9万8000ドル(約1000万円)を手にした。

それに加えてファーガソンは、イギリスがブレグジットに投票することも、ドナルド・トランプが大統領になる可能性についても人々に警告していた。さらに2020年1月には、英「サンデー・タイムズ」誌のコラムにこう書いていた。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに備えよ」

そんなファーガソンに対する最初の質問は、当然ながらこれに決まっていた。

トランプは「エンタメ」に
──アメリカ大統領選ではどちらの候補者が勝利すると思いますか?

ジョー・バイデンは、ヒラリー・クリントンほど不人気ではありません。景気は確実に赤字に転じています。それにトランプ大統領は、新型コロナウイルス感染症をめぐって致命的な失策を犯しました。ですからジョー・バイデンが勝つと思います。それも、多くのジャーナリストを動揺させている「憲政の危機」など起きる心配もないくらい大差をつけて勝つでしょう。

4年前、反対の立場を唱えたり選挙結果を言い当てたりするのは楽しいことでした。ですが歴史家として、これほど深刻な不況下にある大統領が「再選されるはずはない」という事実を直視しないわけにはいきません。しかも、パンデミックが起きていなかったとしても、トランプがとりたてて優位に立っていたとは私には思えないのです。経済状態は要因の一つですが、そもそも彼は、財政・通貨面の刺激を政権の「増強剤」にしてきたはずです。トランプは再選されないでしょう。経済がどん詰まりだからです。

──有権者は今でもトランプ氏の経済政策を信頼しているように思えますが……。

注意深くみれば、それを疑うべき根拠が2つあります。第一に、ウィスコンシンなどいくつかの州では、両候補の支持率に大きく差がついています。第二に、景気をもっとも気にかけ、共和党にとって主要な支持母体である年配者たちがトランプに対する信頼を失っています。

それについては、トランプの新型コロナ対応によって完全に説明がつきます。共和党候補の状況としては、これは致命的でしょう。彼は若年層からの支持はだいぶ前に失っていました。ですから65歳以上の、とりわけ接戦州での支持基盤を失うとなると、生き残る術があるとは思えません。

全投票所で、バイデンの票差はかなり盤石なものになるでしょう。

──未来の歴史学者たちは、トランプ政権について何を記述するでしょうか?

まず、ポピュリズムの余波はずいぶん時間をかけてアメリカに届いたということです。そしてついにその波が到達し、ドナルド・トランプが中米におけるフラストレーションについてはっきりと口にし、浄化的役割を果たしたのです。グローバリゼーション、中国、移民、リベラル派のエリートたちについてもそうでした。したがって、2016年の選挙戦で根本的に寛容な民主党の「エスタブリッシュメント」に対してトランプが勝利を収めたことには、ある種の妥当性があったわけです。

次に書かれるのは、「トランプ政権の歴史的インパクトは、米中関係の流れを変えた点にある」ということでしょう。キッシンジャーとニクソンまでさかのぼる中国についてのコンセンサスを、彼は破壊しました。中国に関しては、民主党を含むアメリカ国民をまったく異なる精神的枠組みへと導きました。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/3c7bcc3d7a9515ede47a9a61a33777972cd5e211
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