菅義偉首相が自ら主導し、新型コロナウイルスの経済対策の核として進めてきた「Go To トラベル」や「Go To イート」が21日、運用見直しに追い込まれた。国内新規感染者数が連日最多を更新する中、専門家に加えて世論も事業に厳しい目を向け始め、軌道修正を迫られた格好だ。経済回復を重視する首相は、見直しは最小限にとどめる方針だが、これで感染者増に歯止めがかかる保証はない。「遅きに失した」との批判が高まれば、高支持率を誇る政権は一気に揺らぎかねない。


 「感染拡大が一定レベルに達した地域では、知事と連携してより強い措置を講じる」。21日午後、官邸。首相は政府対策本部の会合で厳しい表情で宣言し、「トラベル」で感染拡大地域に向かう旅行の新規予約の一時停止などを指示した。ただ、対象地域名などは明かさぬまま。会見した西村康稔経済再生担当相も、見直しの具体的内容は「今後検討」などと繰り返した。

 関係者によると、事業の見直しを主張した20日の政府分科会の提言は、官邸と擦り合わせずに出されたという。首相はこの日の対策本部の直前、西村氏や赤羽一嘉国土交通相ら関係閣僚を呼んで相次いで対応を協議したが、急ごしらえの転換だった実態が浮かぶ。

 「トラベル」などの「Go To キャンペーン」は、首相が第2次安倍政権の官房長官として先頭に立って推進した事業だ。「移動だけでは感染が広がらないと専門家に聞き、やるしかないと思ったんだよ」。首相は周囲に、たびたびこう胸を張っているという。実際、国民の受けはよく、これまでに延べ4千万人が利用。高い内閣支持率にも一役買ったとされる。

 ただ、新規感染者の急増で風向きが変わった。日本医師会の中川俊男会長は18日、「トラベル」が感染拡大の「きっかけになったことは間違いない」と言及。東京都医師会の尾崎治夫会長は医療体制逼迫(ひっぱく)の危機感から「一時中断」を政権に迫った。それでも首相は事業に固執。政権幹部は「GoToをやめれば経済が死ぬ」などと繰り返した。

 一方で、政府高官によると、首相は世論の動向には神経をとがらせていたという。今月中旬の共同通信の電話世論調査では、内閣支持率は63%と高水準ながら、「トラベル」の延長には半数が反対した。分科会の20日の提言で、首相の外堀は埋められた。

 安倍前政権では専門家や知事の声に押される形の対策が続き、「アベノマスク」など政策の迷走もあって支持率が下降線を描いた。経済に力点を置く首相は、GoTo事業自体は続ける方針だ。政府高官は21日夜、今回の見直しで感染拡大が収まるか問われ、こう答えた。「それは分からない」 (一ノ宮史成、前田倫之)

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