何度も「尖閣に安保適用」を確認する日本がアメリカを疑心暗鬼にさせる
Newsweek 2020年11月24日号掲載 ユーラシアウォッチ楊海英
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アメリカの政権が変わるたびに確認を求められる尖閣 REUTERS/Ruairidh Villar

<「日中友好」で中国と商売しつつ有事は若い米兵に戦ってもらう「二重の依存体制」がワシントンをいら立たせている>

アメリカ大統領選挙の大勢がほぼ固まったことに伴い、政権交代を見越して日本政府の対応も慌ただしくなってきた。

11月12 日には菅義偉首相がバイデン前米副大統領と電話会談したが、
対米と対中の間で揺れる相変わらずな日本政府の姿勢は、国際的な存在感を弱める危険性がある。

外交は確かに他力本願だが、対米と対中とでは性質が異なる。目下の日本政府最大の関心は、
民主党へ政権移行した場合、日米同盟の武力行使の及ぶ範囲内に尖閣が含まれるか否かにあるようだ。
実際、菅首相は会談後の記者会見で「バイデンが尖閣への安保適用を明言」と発表したが、
日本は水面下でバイデンの側近らに接触し、この言質を引き出そうと必死だったことだろう。

だが、同盟国の政権交代ごとに自国領土の防衛についての姿勢を都度確認するのはいかがなものか。
同盟が締結されていて、国家としての意思表示が過去にあった以上、何回も再確認する必要があるのだろうか。
日本の執拗な再確認の姿勢は、逆に日米同盟は脆弱で、常に中国に付け込まれる余地のある関係だと示す結果になりかねない。

日本側の行動には、いまだに「米軍占領保護下」から成長していない心理が見え隠れしている。
米軍進駐でもたらされた対米不安がまだ完全に消えていないのだろう。

冷静になって考えると、
アメリカだって何度も中国に苦水を飲まされてきた。オバマ民主党政権の対中融和政策に行き過ぎた面があったことは否めないし、
場合によっては無能だったと批判されても仕方ない。
オバマ以前も中国をWTO(世界貿易機関)に迎え入れ、国際社会の建設的な一員になるよう促したが、その期待は裏切られた。
南シナ海に人工島を造設して自国領海としたことや、一帯一路という巨大政治経済圏構想もアメリカの利益に触手を伸ばす結果だと映ったに違いない。

その延長線で考えると、尖閣のある東シナ海の喪失は、中国の対米防衛線である第一列島線の突破を意味し、
グアムから米本土が中国海軍の脅威にさらされることになる。
日本が強調しなくても、在沖縄米軍はにらみを利かしているはずだ。

おとなしくワシントンに「忠誠」を尽くしていればいいのに、日本はどうして不安を感じるのか。
実はアメリカを疑心暗鬼にさせているのは、ほかでもない日本自身だ。
「安保はアメリカ、経済は中国」というように、虫の良い政策を実施してきたことに因果律がある。

「日中友好」をうたい、先の大戦の贖罪を行いつつ、中国で商売する。
そのくせいざというときにはアメリカの若者に戦ってもらうという二重の依存体制の他力本願。
米軍はいわば「平和国家日本の番犬」という発想が、ワシントンの政治家とシンクタンクの識者たちをいら立たせている。
「平和の使者たる日本」を守るためにアメリカの軍人が命をささげるという大義名分がどこにあるのかも含め、
日本は同盟国の立場にも立って物事を再考する必要があろう。

中国はどうか。実質的な戦争賠償金として2018年まで長年続けてきたODA(政府開発援助)と日本の先進的技術で強大になっても、
「友好」は便宜的なスローガンであり反日こそが国策だ。必要ならばいつでも人民を反日行動に駆り立てられる。
「歴史カード」は日本の政治家と国民をねじ伏せる有効な武器だと分かっている。
ほぼ毎日のように尖閣沖に公船を遊弋(ゆうよく)させても、日本から懸念表明以上の反応がないのを中国は冷笑しているに違いない。

国際社会は八方美人がパフォーマンスする舞台を用意していない。「地味な」菅政権は余計に苦労するだろう。

<2020年11月24日号掲載>


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1996年9月ウォルター・モンデール米国駐日大使
「米軍は尖閣諸島の紛争に介入する日米安保条約上の責務を有していない」
カート・キャンベル国防次官補代理
「尖閣諸島を日米安保条約の適用対象」
https://japan-indepth.jp/?p=36213