高齢者の問題として話題になることが多かった「孤独死」だが、単身世帯(一人暮らし)が全年代で増えているいま、年齢を問わない問題になりつつある。そして2020年7月には、遺品整理や特殊清掃を行う株式会社ToDo-Companyから「オタクの孤独死が急増」と発表されたのを目にして、落ち着かない気持ちになった一人暮らしの人も少なくないだろう。俳人で著作家の日野百草氏が、好きなものに囲まれてこの世を去ったオタクの死について考えた。

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「葉月のやつ、まだブラウン管だったのか、最期まで変わらないな」

 限りなく埼玉に近い東京都区部、親御さんの許可をいただき見慣れたアパートの一室に入る。もう20年以上前か、このアパートでネオジオの格闘ゲームに興じたり、古いアニメを見てはああでもない、こうでもないと一晩中語り合ったのは。部屋の中は驚くほど変わっていない。時が戻ったみたいだ。このアパートの住人は、葉月くん(40代、仮名)。彼は『闘神都市』というゲームのヒロイン、瑞原葉月が好きだったので葉月にさせていただく。

「でもこのベガどうするんだろうね、俺はいらないぞ」

 大切なものは親御さんがすでに回収したため、残ったものは形見分けでいただけるという。オタクの形見分けなんて、昔々、かがみあきらという天才漫画家が急死した時の逸話を思い出す(真相は知っているがそこは省く)。もちろん業界の先輩から聞いただけの話だが、旧友の形見分けなんて ―― 我々は、もうそんな年齢になったのだ。

「うわ、映るよすごいね、昔の日本製は優秀だ」

 さっきから色々やかましい男は元同僚の岸田くん(仮名、40代)、彼もまた、葉月くんとは古くからの知り合いだ。彼はベガが残っていたことに興味津々だ。ベガ(WEGA)はソニーの誇るトリニトロンカラーテレビ、2007年にシリーズ生産終了している平面ブラウン管初期の傑作機である。まして葉月くんのベガはハイビジョン32型である。消費税5%(当時)に諸経費で50万円くらいしただろうか、筆者もコレクションとして欲しいが重さ約70kg、床がフローリングでなく畳だったらめり込んでいたに違いない。ちなみに岸田くんは映像マニア、特撮ドラマ『怪奇大作戦』の「狂鬼人間」における岸田森の発狂シーンが大好きなので岸田とさせていただく。

「なんか、羨ましいよな、ここまで変わらないまま死ぬってのも」

 岸田くんの言葉にうなずく。葉月くんはアニメを観ている最中に(親御さんの証言)、急性心筋梗塞で死んだ。自分で救急車を呼んだが救急隊が到着したときには冷たくなっていた。おそらく突然死に近い状態だったのだろう。部屋の中で何日も何週間も遺体のままは避けられたが、あっという間だった。筆者も4年前に急性心筋梗塞で死にかけた。助かるかどうかは年齢関係なく時間と運が左右する。原因となる不調を起こす冠動脈が何番目かにもよる。筆者はAHA分類で3番の閉塞だったが、葉月くんは5番と聞いた。5番の左冠動脈主幹部は心筋血流全体の 80%が通る重大箇所でとくに危険だ。不健康な人や高齢者ばかりではない。サッカーの松田直樹さん(享年34)やバレーボールの谷村孝さん(享年35)など健康で若くとも、心筋梗塞はある日突然やってきて、あっという間に命を奪う。

■ 壁一面にアニメや特撮のレーザーディスクの棚

「これもいらないなあ、眺めてるとこう、壮観だけどね」

 葉月くんのアパートは2Kだが振り分けではなくつながって奥に部屋があるタイプだ。奥の部屋は壁一面がレーザーディスク(LD)の棚。ほとんどがアニメと特撮で、見慣れた懐かしいロゴがずらり並んでいる。20年以上前、葉月くんの自慢のコレクションだった。

「この『うる星やつら』とか33万円だもんな、『銀河英雄伝説』も全部揃えたらとんでもない金額だ」

 いまだに当時のダンボール箱に入れられたままの『うる星やつら』LD-BOX、そして荘厳で百科事典のような装いの『銀河英雄伝説』LD-BOX全5巻(外伝含む)。『うる星やつら』のほうは高校時代にバイトして買ったと言っていたが羨ましかった。『銀河英雄伝説』のボックスはもう箱の一部がひしゃげている。レーザーディスクの大円盤は結構な重量なので、さすがに20年の年月は厳しかったか。

「タキの『ボトムズ』のボックスなんて中古で10万円以上してたもんな、アキバのゼットで一番いいとこにあった」

※引用ここまで。全文は下記でどうぞ
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