※PRESIDENT Online

大量リストラが前倒しされる恐れ…3社に1社が「1年以内に雇用維持できなくなる」

1月7日に発出された2度目の緊急事態宣言で、企業の大規模なリストラの発生が現実味を帯びてきた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「失業対策の国の財源が枯渇しつつあり、業績低下の企業も体力をそがれた状況での再宣言。昨秋の調査で3社に1社が『1年以内に雇用維持できなくなる』と回答しており、リストラが前倒しされる恐れがある」と指摘する――。

恐れていた事態「リストラも検討しなければならなくなった」

緊急事態宣言の再発出によって大規模なリストラの発生が現実味を帯びてきた。

対象エリアは一都三県だが、明日13日以降、関西、中部圏にもエリアが拡大する可能性が高い。企業各社は感染拡大と再発出を最も恐れていた。大手広告会社の人事部長はこうため息をつく。

「2020年4月の緊急事態宣言の発令により受注活動が制限され受注数が前年比マイナス40〜60%に落ち込んだが、その後は回復傾向にあった。雇用を守るという前提で下半期から本格的に固定費額が大きい採用費、広告宣伝費、交際費削減、ボーナスカットを実施してきた。もちろん冬期の感染拡大による緊急事態宣言もあるかもしれないと予想はしていた。だが、そうなるとリストラも検討しなければならなくなるが、まさに恐れていた事態が起こってしまった」

すでに雇用情勢は悪化している。

2020年11月の雇用者数は前年同月比41万人減となり、同月のパートを除く有効求人倍率は1.02倍と低迷している。また、厚生労働省は新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めは見込みを含めて1月6日時点で8万121人に上ることを明らかにしている。

※略

3分の1の企業で1年以内に「現状の雇用を維持できなくなる」

調査したのは2020年10月初頭だが、コロナの第3波がまだ到達していなかったこの時点で削減実施の企業を含めて2割弱(18.0%)の企業で半年以内に、また3分の1(33.6%)の企業で1年以内に「現状の雇用を維持できなくなる」と見込んでいる。もちろんこうした企業はすでに雇調金を受け取っている企業も多いだろう。それでも企業の体力に限界はある。

産業別に雇用維持できる期間を確認しよう。最も短いのは「飲食・宿泊業」だ。4割以上(43.0%)の企業で雇用維持できるのは「半年以内」、7割(70.3%)の企業で「1年以内」と答えている。

以下、雇用を維持できる期間が半年以内と答えた産業別の割合は以下の通りだ(カッコ内は1年以内)。

飲食・宿泊業 43.0%(70.3%)
製造業 23.7%(40.6%)
サービス業 19.6%(39.0%)
卸売業 17.8%(32.2%)
小売業 15.3%(29.5%)
情報通信業 13.3%(28.3%)
運輸業 12.8%(30.6%)
建設業 12.3%(26.1%)

しかもこの数字はコロナ新規感染者数が比較的落ち着いていた2020年10月初めの時点の各社の見込みだ。その後、感染拡大が進み、緊急事態宣言の再発出されることは想定していない。今回の緊急事態宣言の直撃を受ける飲食・宿泊業が雇用維持できる期間がさらに早まるのは確実だろう。

感染収束しなければ多くの産業で前倒しのリストラの公算が大きい

もちろん他の産業も例外ではない。

緊急事態宣言がさらに長期化する、あるいは感染が収束しなければ、それを引き金に多くの産業で前倒しのリストラに踏み切る公算が大きい。

同時に産業の再編も起こる可能性も高い。建設業の人事部長はこう予測する。

「かつて多くの都銀があったが再編され現在に至っているように建設業界も今後は再編へと向かって行かざるを得ないと思う。たとえば住宅建設は大手8社のシェアはわずか20%台であり、いわゆる個人事業主(一人親方)や地域の工務店などが圧倒的に多いのが特徴。しかも人口減で後継者がなく、廃業する企業も年々増えている。収益構造を考えれば、ゼネコン同様に業界再編成へと向かうだろう」

産業再編による合併などが発生すれば、さらに余剰人員が増え、大機規なリストラが避けられない。

こうした労働環境の悪化は、他の業種にも多かれ少なかれ波及するのではないか。とすれば、政府は“失業なき労働移動”をいかに実現していくのか。動きの遅い感染対策に終始する政府ははたして国民の生命と財産(収入)を守ることができるのだろうか。

2021/01/12 13:00
https://president.jp/articles/-/42280