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【福岡コンフィデンシャル】

「福岡の数字が改善しない。これ以上、福岡からの感染拡大を何としても防ぎたい」。
12日夕、新型コロナ対策を担当する経済再生担当相の西村康稔は、福岡県知事の小川洋に電話をかけ、
緊急事態宣言の再発出を「最後通告」した。

西村と小川は同日朝も電話で話している。小川は、西村に県内の感染状況、病床や宿泊療養施設などの
医療提供体制をさらに拡充する方針を説明。現段階で宣言は必要ないとの考えを伝えていた。

宣言が再発出されれば飲食店を含め影響は甚大だ。小川はまず大阪府や愛知県など宣言を要請している
自治体を指定した上で、「(福岡については)もう少し状況を見て(必要なら)追加的な指定ができないか」
と電話で食い下がったが、西村は揺るがなかった。「短期集中で止めたい。時間をかけている余裕はない」

押し切られる形で了承した小川。13日朝、県庁で記者団に囲まれ「私としてはやむを得ないと判断した」と絞り出すように語った。

小川は県のコロナ対策の柱に「医療提供体制の維持と経済活動の両立」を据えてきた。だが「第3波」の猛威は容赦なく、県の体制を揺るがした。

県内の12日現在の感染状況を政府分科会の指標に当てはめると、7項目のうち、確保想定病床の使用率、
10万人当たりの新規感染者数、感染経路不明者の割合など6項目が「ステージ4(爆発的感染拡大)」に該当する。
それでも小川は8日の記者会見で、こうした指標について「一つ一つの数字は意味があるが、総合的な判断が必要だ」
などと繰り返し、宣言の要請に慎重姿勢を崩さなかった。

その方針は、県内感染者の5割超を占める福岡市の市長、高島宗一郎とも「珍しく一致していた」(同市幹部)。
同市の感染者が初めて200人台に到達した7日も、高島は飲食店への営業時間短縮の要請について、
記者団に「今、決断することではない」と語った。北九州市長の北橋健治とも対策を擦り合わせ、県全体で経済活動を
制限する対応は極力避けてきた。

小川は「人の命は大事だが、厳しい措置をすれば雇用や経済活動に影響する。厳しい措置は長続きしない」と話す。
大都市を抱える首長ゆえの経済への強いこだわりが、判断の遅れを招いたことは否めない。

福岡県に宣言が再発出されるとの情報が広がった13日朝から、県庁には電話やメールが相次いで寄せられている。
「なぜ福岡に宣言が出るのか」「いつから発令されるのか」。多くは宣言による生活不安を訴える内容という。

ある中堅県議も「県から医療提供体制が逼迫(ひっぱく)する状況にはないと説明を受けたが、その翌日に緊急事態宣言が出ると言われた。
1日でこんなに変わるのか」と戸惑いを隠さない。県幹部は「国が先に動いた形になったことで、知事が要請を見送った判断は
おかしかったと批判されることになるだろう」と危惧する。

急転直下の再発出は県民に驚きとともに痛みを強いることになる。高島は13日夜の記者会見で「気持ちを切りかえて、
市民が一つに協力することで短期間で乗り越えよう」と強調。小川は、分析の甘さを問われると「指摘は必ずしも当たらない。
医療は直ちに逼迫する状況にない」と気色ばんだが、すぐに取り直し「感染防止に歯止めをかけ、医療提供体制の維持確保の努力を続ける」
と語った。(敬称略)