東京商工リサーチは、2020年に自ら事業をやめたり解散したりした件数が5万件前後となり、過去最多となる見通しを明らかにした。政府の資金繰り支援策で倒産件数はバブル期以来の低い水準となったが、コロナ禍での先行きを悲観し自主廃業を選ぶ事例が増えている。


◆政府支援打ち切りで今年は倒産増える懸念も
 13日に発表した20年の全国の企業倒産(負債額1000万円以上)の件数は、前年比7.2%減の7773件と1990年以来30年ぶりに8000件を下回った。そのうち、新型コロナウイルスの関連倒産は792件だった。
 産業別では飲食業や宿泊業を含むサービス業の倒産が最も多く、建設業、小売業と続いた。負債総額は1億円未満が76%と、小規模倒産が目立った。
 倒産が減ったのは持続化給付金や、実質無利子・無担保の融資といった政府の支援策に支えられたことが理由だ。そのため、給付金の打ち切りを受け、倒産が今後増加する懸念もある。
◆今の売り上げあっても自ら休廃業選ぶ人多く
 倒産件数が減った一方で、休廃業や解散の件数は過去最多を更新する見通し。20年1〜10月で既に4万3802件と、19年の4万3348件を超えた。そのうち、飲食店は1489件と最多で、外出自粛や営業時間の短縮の影響を受けた。
 東京商工リサーチの担当者は「目先の売り上げはあっても先行きの見通しが立たずに、倒産するより前に諦めて事業をやめる休廃業がさらに増えそうだ」と予測している。

◆借金かさみ将来に悲観 苦渋の決断
 売り上げがまだある中で、企業にとって自主的な休廃業や解散をするのは苦渋の選択だ。実際に決断した企業では、新型コロナの収束を見通せない中、増え続ける借金を前に将来を悲観する場合が多い。

 「財務状況のさらなる悪化を食い止めるためだ」。6月末で営業のいったん休止を決めた東京都千代田区のホテルグランドパレスの担当者は理由を語る。
 このホテルはプロ野球のドラフト会議の舞台にもなったが、コロナ禍で宿泊や宴会、婚礼に打撃を受け昨年の売り上げは前年比7割減。宿泊客の約半数だった外国人観光客の「消失」も響いた。
◆「取引先や従業員に迷惑かけないうちに」
 タカクラホテル福岡(福岡市)も今月末での自主廃業を決めた。担当者は「先行きが見えず、これ以上続けても給与支払いや債務の支払いが滞る。取引先や従業員に迷惑をかけないうちに決断した」と明かす。
 廃業にまでは至らないが店をたたむケースもある。6年間営業を続けた東京都千代田区のネイルサロンは昨年12月初旬に閉店となった。1度目の緊急事態宣言が出た昨年4〜6月の休業を経て、営業を再開したが客足は戻らなかった。40代のオーナー男性は「余力のあるうちに店をたたみたかった」とし、家賃の負担や従業員の退職を理由に閉店を決めた。
◆借り入れでさらなる負担も まず相談を
 「長引くコロナ禍で将来の希望を失い、自ら事業を諦めるケースは多い」。中小企業の廃業支援を行う日本企業評価会計事務所の公認会計士、近暁さんは指摘する。政府支援で一時的に生き延びたとしても「借り入れは将来への投資ではなく、あくまで運転資金や赤字の穴埋めで、企業規模に見合わない額を借り入れると返済も負担で、傷口は大きくなる」と分析する。
 金銭的な支援以外にも、別の支援が必要だと主張するのは中小企業の経営に詳しい法政大経営大学院の丹下英明教授だ。「新たな事業に変革できるようサポートする人的支援も有効」と指摘。残念ながら廃業する場合でも「経営資源は貴重で、一部でも譲渡できる場合があり、行政や税理士らにまず相談することが大切」と呼び掛ける。(嶋村光希子)

東京新聞 2021年1月14日 17時06分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/79901