◆相次ぐ不具合で信頼性失う
 新型コロナウイルスに感染した可能性を通知する政府の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」は導入から1年で、陽性を申告して利用した人が陽性者全体のわずか2%にとどまっていることが分かった。陽性の申告が任意であることに加え、相次ぐ不具合で個人情報保護などへの信頼を失っていることが要因。東京五輪・パラリンピックでは選手らに利用を求めるが、多言語への対応も遅れ、感染拡大防止の機能を十分に発揮できない恐れがある。(後藤孝好)
 厚生労働省によると、スマートフォンへのココアのダウンロード実績は昨年6月の導入以来、約2834万件で、日本の人口の2割強。これに対し、6月18日時点でココアへの陽性の申告の登録は1万8105件で、約78万人の国内累計感染者数の2%にすぎない。
 ココアは陽性者との接触を4カ月間も通知できていなかった問題が見逃されるなど、当初から不具合が後を絶たず、利用に不安を抱えてきた。厚労省の担当者は「陽性者にとってはプライバシーの懸念もある。感染拡大防止の観点から登録してもらうことが重要であると保健所を通じて伝えていきたい」と説明する。
 ココアをダウンロードしている感染者が陽性の申告を希望する場合、保健所が国の感染者情報共有システム「HER―SYS(ハーシス)」で処理番号を発行。メールなどで処理番号を受け取った感染者はココアで自ら入力する。国会審議では、野党から陽性申告の登録を義務化するよう求める意見もあったが、田村憲久厚生労働相は「義務化の法律を通すハードルは高い」と慎重姿勢を示す。

 ココアは水際対策でも使われ、入国者はスマホへのダウンロードを事実上、義務付けられている。東京五輪・パラでも使用され、国際オリンピック委員会(IOC)などが新型コロナ対策をまとめたプレーブック(規則集)第3版では、ココアをダウンロードするよう求めるが、外国語版は英語と中国語だけだ。
 対応言語が限られ、陽性の申告に手間がかかる現状では、選手や関係者らに活用されないことも想定される。内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室は「現段階ではこれ以上の多言語化の予定はない」としている。
◆当初は人口6割に普及期待も…
 新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA(ココア)」は昨年6月、当時の安倍晋三首相が「クラスター(感染者集団)対策を強化する鍵」と位置付けて導入した。安倍氏は記者会見で、アプリが人口の6割近くに普及すれば、ロックダウン(都市封鎖)を避ける効果が期待できるとして利用を呼びかけていた。
 ココアの開発は2020年度、厚生労働省が約3億9000万円の随意契約でIT企業パーソルプロセス&テクノロジー(東京)に委託。同社は契約金額の94%で3社に再委託し、別の2社にも再々委託されていた。業務委託が繰り返されて責任の所在が曖昧となり、不具合が頻発しても修正が遅れる問題が続いた。
 21年度のココア運用などの業務は、20年度の再委託先の一つだったエムティーアイ(東京)に3億1300万円で委託し、さらに再委託もされて計7社が業務に関わっている。厚労省は4月、不具合が放置された問題で、事務次官と健康局長を文書による厳重注意処分とした。

東京新聞 2021年6月21日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/111758