29日投開票の自民党総裁選で、河北新報社は地方紙11社の枠組みで4候補に共同インタビューした。各社とも中央の総花的な政策ではなく、地方特有の課題を問う必要があるとの意見で一致した。候補者には地方紙で情報発信し、党員・党友票を獲得する狙いがある。双方にメリットがある試みは、次期首相候補の地方への関心度や問題意識を読者に届ける好機となった。
(東京支社・桐生薫子)
きっかけは8月26日夜。岸田文雄前政調会長の事務所から、地元の広島市に本社を置く中国新聞社を通じて記者会見開催の打診があった。
取材当日の9日、東京・永田町は慌ただしかった。河野太郎行政改革担当相が派閥幹部に出馬の意向を伝え、前日には高市早苗前総務相が立候補を表明。心穏やかではないはずの岸田氏は、本紙などの22の質問に1時間半を割いて答えた。
特に力が入ったのが衆院小選挙区の「10増10減」だ。「私の地元を含め地方の定数が削られ、将来的に議員の4割が関東になる。憲法がうたう1票の平等も分かるが、地域の歴史や一体感といった物差しも必要」と語った。
翌日の各社朝刊は「東京一極集中是正を」と地方紙らしい見出しが並び、本紙は東京電力福島第1原発事故の処理水問題にも触れた。次期首相候補に地域課題を問うのは有益で、他の3候補にも取材を要請した。
次に記者会見した高市氏は、事前通告した質問に対する分厚い直筆メモを携えて会場入りした。「回答は全て本人が考えている」と秘書。防災に関しては2016年夏に岩手県岩泉町の高齢者施設を襲った台風10号豪雨を例に出し、流域治水の重要性を訴えた。
高市氏は予定時間を過ぎても「質問していない社がある」と続行。北國新聞社(金沢市)が北陸新幹線の開通見通しを尋ねると、「私も福井県民(山本拓元農林水産副大臣)と結婚していた時、整備運動に巻き込まれた」と笑いを誘った。
野田聖子幹事長代行は知らない地域課題を下調べして臨んだ。熊本日日新聞社(熊本市)が水俣病の被害者団体が求める健康調査の是非を聞くと、「私は地元事情を知らないので関係者に確認した。公害は風化が一番の問題であり、解決を応援する」と答えた。
地方創生に関しては「地域おこし協力隊の若者は田舎の閉鎖空間で孤立しやすくもあり、周囲とつながれるよう地方紙も後押しして」と注文を付けた。
公務の合間を縫って会見に応じた河野氏は「ところで11社ってどういう枠組み?」と逆質問を始めて場を温めた。地方移住の促進に「テレワーク減税」を打ち出す。消費者担当相時代には徳島県への消費者庁移転を推進したといい、「霞が関の全員が好きな土地へ行き、仕事ができる環境を整えたい」と意気込んだ。
「地方票」巡り最終盤までもつれるか
4氏が取材に応じた背景には、新型コロナウイルス禍で各地を回れない代わりに地方紙を通じて政策をアピールする狙いがある。国会議員票と同数ある地方票は派閥の締め付けが利きにくく、獲得の多寡は結果に大きく影響する。
内閣支持率が著しく低迷した森喜朗首相(当時)の後任を決める01年4月の総裁選は、小泉純一郎氏が地方票の9割近くを獲得。優位とみられていた橋本龍太郎氏に勝利し、続く7月の参院選も勝ち抜いた。
今回も11月までに行われる衆院選の「顔」を決める手続きだけに、地方票を巡って最終盤までもつれそうな気配だ。
河北新報 2021年09月26日 06:00
https://kahoku.news/articles/20210925khn000040.html
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