【北京=川手伊織】中国政府は、政府調達で外資企業が受ける差別的措置の是正に乗り出した。入札条件などの公平性を高め、外資企業を事実上締め出す購入候補リストなどを修正する。環太平洋経済連携協定(TPP)加盟への交渉入りをにらみ、対外開放を示す狙いがあるようだ。ただ例外規定も設けており、実効性には疑念が残る。
中国の政府調達の規模は2020年、約3兆7000億元(約66兆円)に達した。5年で1.8倍に拡大し、国内総生産(GDP)の3.6%に相当する。
同国の「政府調達法」では地方政府や国有企業に対し、原則として中国で生産した製品やサービスを購入するよう規定している。これまで日本企業からは「中国で製品を作り、価格も中国企業と同水準で入札に応じたのに、競り負ける例がある」との不満が上がっていた。
中国財政省は今月中旬、地方政府向けに差別的待遇の是正に関する通達を出した。通達には「中国国内で生産した製品なら、供給業者が中国資本でも外国資本でも、政府調達に公平に参加できる権利を保障しなければならない」と明記した。
具体的には、政府調達の入札条件などを公表する際、企業の株主構成や投資家の所在国に条件をつけて、供給業者を制限してはならないとした。入札に応じた企業は地方政府に対し、入札や取引の結果への不満を訴えることもできる。財政省は訴えへの対応においても、国内外の企業で対応に差をつけることを禁じた。
地方政府の中には、外資を事実上締め出すために、あらかじめ調達元の候補を絞ったリストを作成する動きもある。財政省は今回の通達に反するこうしたリストは速やかに修正するよう指示し、11月末までに修正状況を報告することも要求した。
TPPでは、政府調達で国内外企業の差別を原則的になくすよう求めている。中国は9月に正式に加盟申請し、南米や東南アジアへの積極外交でチリなどから加盟の支持を取り付けた。
一方で、安全保障で対立するオーストラリアやカナダは中国の加盟に慎重とみられる。日本政府関係者も「中国がTPPの高い要求水準を満たすことが最重要だ。中国に多くの例外を認めるといった妥協はあり得ない」とする。中国の今回の通達はTPP加盟の交渉入りをにらみ、環境整備をアピールする狙いがありそうだ。
政府調達で外資企業への開放姿勢を見せる一方、どれほど是正が実現するかは不透明な部分が残る。通達では「国家の安全や秘密に関する調達プログラムは対象から除外する」と明記しているためだ。
中国には「総体国家安全観(総合的な国家安全のあり方)」という概念がある。習近平(シー・ジンピン)国家主席が打ち出したものだ。安全保障の対象として政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態、資源、核の11分野を挙げ、20年12月に施行した輸出管理法などにも盛り込まれている。
中国政府は18年ごろからパソコンやサーバー、複合機などについて「安可目録」や「信創目録」と呼ぶ推奨企業・製品リストを作成した。データ流出の防止など安全保障上の理由から、調達先を外資の出資比率が一定以下の企業や経営トップが中国国籍を持つといった条件に当てはまる企業に絞るようになったとされる。
国家安全の定義が曖昧なままだと、地方政府などが例外規定を恣意的に運用する可能性が残る。外資企業からは「内外差別を是正する通達は一歩前進だが、実態を見極めるには時間がかかる」との声が出ている。
財政省は通達に加え、政府調達法の改正も検討している。20年12月にパブリックコメントにかけた改正案では、政府調達をめぐる安全審査制度の新設を盛り込んだ。国家の安全に影響しうる政府調達について、関係部局が組織する国家安全審査を受けなければならないとした。
米中の貿易摩擦が激化するなか、米国は政府調達について中国を締め出している。19年8月からは華為技術(ファーウェイ)など中国5社の製品の政府調達を禁じ、20年8月には、5社の製品を使う企業からの政府調達も禁じている。
日本経済新聞 2021年10月24日 19:22
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM220GW0S1A021C2000000/