昨年の秋以降、日本国内のコロナ感染者数は落ち着きを見せてきた。これは、菅義偉政権時代にワクチン接種が驚異的なスピードで進んだことが奏功したといえる。
昨年末の時点で総人口の73.8%が2回接種を完了し、今や65歳以上の接種率は9割を超える。米国や英国、ドイツなどを上回る接種状況となった。

だが、昨年10月の岸田政権発足に伴ってコロナ対策は緩慢になったとの指摘は少なくない。

新政権で11月19日に閣議決定された経済対策は、足元の感染者数減を前提に緩やかな対策へとかじを切り、
観光刺激策「Go Toトラベル」キャンペーンの早期再開を模索するなど、社会経済活動との両立を急いできた。

政権発足後100日間は「ハネムーン期間」といわれるが、世界で変異株「オミクロン」が拡大する中で
飛行機の国際線の新規予約停止を航空会社に要請したものの、わずか3日で撤回するなど指揮命令系統の混乱も目立つ。

就任100日目を迎えた岸田首相は1月11日、「目まぐるしく変わる国内外の情勢に機動的に対応しながら、
スピード感を持って山積する課題に一つ一つ決断を下し、対応してきた」と自賛した。

だが、菅前政権でワクチン供給にも尽力した政府関係者は憤りを隠さない。

「昨年後半に新規感染者数が著しく減少したのはワクチン接種率が猛スピードで上昇したからです。
菅首相(当時)の強いリーダーシップでワクチン確保に全力を挙げ、1日100万回以上の接種を可能にしました。

当然、第6波が到来することは想定されていたわけで3回目の追加接種を早期に準備していなければならなかったのですが…。
岸田政権でワクチン供給・接種が遅れ、再び日本国内に暗雲が漂っていることが本当に残念でなりません」

1月8日に1224人と、昨年9月15日以来となる1000人超のコロナ新規感染者が確認された東京都。

ある保健所関係者は岸田政権の「初動の遅れ」が悔やまれると、ため息交じりに話す。

「2回目のワクチン接種が順調に進んでいたのに、3回目の接種は第6波に間に合いませんでした。
海外の事例を見れば十分に予見できたはずですが、政府はなぜ後手に回ったのでしょうか。このまま医療関係者が感染していけば医療崩壊になってしまいます」

世界保健機関(WHO)が「デルタ株よりも著しく速いスピードで広がっているという一貫した証拠がある」(テドロス・アダノム事務局長)と
警戒するオミクロン株は、感染した場合の症状がより軽いとされる一方で、その感染速度の速さから各国は追加接種を急ぐ必要性に迫られてきた。

しかし、岸田政権は昨年秋、3回目の追加接種は「2回目の接種から原則8カ月以上後」と確認。
厚生労働省のウェブサイト「新型コロナワクチンQ&A」には「原則8カ月以上間隔をあけて接種を受けることができます」と記載し、
医療従事者や重症化リスクの高い高齢者施設入所者などは接種間隔を6カ月に短縮できると説明している。

政府は「8カ月」とした根拠について米国や英国などを参考にしたというが、米国では1月3日に過去最多となる108万人の感染者が確認されるなど欧米での感染拡大は収まっていない。

前出の保健所関係者は「『8カ月』という方針は感染速度が速いオミクロン株を考慮したものではなく、科学的な根拠は乏しいはずです。
岸田首相は『前倒し』を強調していますが、要はこれまでワクチン確保が後手後手に回っているということです」。

ワクチンは2回目の接種から半年程度で感染予防効果がほぼ半減するとの海外研究は政府内で共有されている。
このため、自治体からは高齢者の前倒し接種を求める声が寄せられたが、ワクチン確保や自治体の負担を踏まえた期間として「原則8カ月」を動かさずにきたのが実情のようだ。

菅政権時代の首相官邸スタッフの1人は岸田政権の舞台裏をこう推察する。

「本当はワクチンが不足しているから一斉の追加接種ができないんだと思います。でも、それが発覚すれば岸田首相が責められてしまうから、政府としては絶対に認めない。
菅前首相や河野太郎前ワクチン担当相は批判もされましたが、強いリーダーシップでワクチンを確保し、接種を加速させた。有事は決断とタイミングが大切なんだと思います」

水際対策のグダグダが失望を招く中、菅前首相のコロナ対応を批判して宰相に上り詰めた岸田首相は今、何を思うのだろうか。
https://diamond.jp/articles/-/293159