■円安が国益であるはずはない

 「円安が国益という考えは全く間違い」というのが、『日本が先進国から脱落する日』で強調した最も重要なメッセージだ。
そのことが、この数カ月で、ますます明確になっている。

 そもそも、円が安くなるとは、日本人の働きが国際的に見て低く評価されることを意味する。そんなことを喜ぶ国民はいない。
それにもかかわらず、日本人は、「円安が国益だ」という誤った考えに、数十年の間、取り憑かれてきた。なぜかと言えば、円安になると、企業の利益が増えるからだ。

 これは、つぎのようなメカニズムによる。

 いま、日本の輸出品のドル表示での価格が一定であるとしよう。円安が進めば、円表示での輸出品価格は増大する。
だから、輸出産業の売上高は増える。だから、輸出産業の利益が増える、と説明されてきた。

 しかし、このメカニズムにはトリックがある。なぜなら、第1に、輸入品価格も円安によって増えるからだ。
したがって、原材料価格も上昇する。この影響を考えると、企業の利益が増えることにはならないはずである。企業利益が増えるのは、原材料価格の上昇を、製品価格に転嫁してしまうからだ。

 第2のトリックは、円建ての売上高が増加するにもかかわらず、国内労働者の賃金を引き上げないからである。したがって、ドルで評価した賃金は低下することになる。

 この2つのトリックがあるために、円安になると、企業利益が増加するのだ。結局、消費者と労働者の犠牲によって、企業利益が増加することになる。

 しかし、このメカニズムは、分かりにくい。したがって、消費者が価格転嫁に反対することはなく、また労働者は賃金が抑えられていることに反対しない。

 こうして、企業の立場からすれば、円安になれば、自動的に利益が増えることになるのである。これによって利益を受けるのは、企業の保有者、つまりその企業の株主だ。

 ここで注意すべきは、円高になると、以上とは逆の現象が起きてしまうことだ。賃金は、円高になったからといって減らされることはない。したがって、企業の利益は減少することになる。

 2000年以降円安政策がとられたが、円高が進んだ時もある。したがって、企業の利益が恒常的に増えたわけではないのだ。

■円安こそが日本衰退の原因

 では、本来とられるべき政策とは、いかなるものか? 

 それは、為替レートが円高になることに対応して、技術を開発したり、新しいビジネスモデルを開発したりすることによって、利益を確保することだ。

 実際、1970年代から80年代にかけて、日本経済の発展にともなって、円高が進んだ。
このとき、日本企業は新技術の開発によって、それに対応したのである。そして、世界経済における日本経済の地位が高まっていった。

 しかし、2000年代ごろから、中国の工業化にともなって日本企業が苦しくなり、円安・賃金固定政策がとられるようになったのだ。

 その結果、企業は技術開発を怠り、生産性が低下した。また、古い産業が淘汰(とうた)されずに残ってしまった。
つまり、中国工業化に対し、古い産業を残して、雇用を維持したのだ。

 円安は麻薬のようなものだ。本来行われるべき技術開発と産業構造の転換をせずに、雇用を維持することができる。
そうした政策を20年間飲み続けて、とうとう足腰が立たなくなったのが、現在の日本だ。円安こそが、日本衰退の基本的な原因だ。

 2010年ごろには、円高が進み、日本経済の「六重苦」と言われるようになった。

 本来であれば、労働者の立場から円高をよしとする政策をとるべきであった。しかし、当時の民主党政権は、懸命になって、円安誘導を試み、日本の労働者の国際的な価値を低めたのである。

 そしていま、日本は世界の先進国から滑り落ちようとしている。

(全文はソースにて)
https://news.yahoo.co.jp/articles/9a0746c9ddb4298052f341ece468119572a880a2?page=4