障害者ドットコム2022.08.16
https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2542

電車と自閉スペクトラムは切っても切れない関係だとよく言われています。電車の好み方は「撮り鉄」に限らず、車両・模型・乗車・線路・時刻表・廃線など対象は多種多様ですが、素人考えでは車両か模型か撮影に限られているのではないでしょうか。

何はともあれ、電車の持つ規則性に自閉スペクトラム持ちが惹かれやすいというのが通説です。時間の規則性にルーズな海外ですら、電車(Train)と自閉(Autism)の関連について論文などが出ている程です。

とはいえ、電車と自閉スペクトラムの関連性について、人々が持つ知識にはいささかの不健全さが感じられます。撮り鉄批判が暴走しているだけのように見えてなりません。

■大前提として、例外は必ず存在する
これは大前提として知っておくべきなのですが、あくまで「傾向」の話に過ぎません。自閉症だから電車が好きとは限りませんし、電車が好きなら皆自閉症と見做すのはあまりに短絡的すぎます。例外や反証が確かに存在する以上、電車と自閉症の関係を永劫不変の真理であるかのように解釈するのはやめましょう。

まして、対象をASDのみならず発達障害全体に広げるのは無知を通り越してデマの領域です。物事はそう単純な繋がりばかりで語れないことをまずは知っておいてください。

■さまざまな考察
電車と自閉スペクトラムの関係について、既に様々な考察がなされています。よく言われるのが「不変性」や「規則性」に惹かれやすいという説です。車両・線路・ダイヤグラムなど、一定の規則を変えずに毎日動いてくれるので、それが好かれやすいというのです。

とはいえ、言うほど不変のものでもないことは分かるでしょう。事故や信号点検などでダイヤグラムが乱れることはありますし、線路は猛暑で変形することもありますし、ダイヤ改正もゼロではありません。身の回りでは、帰省の時に乗る特急から自由席が無くなるという大きな変化もありました。

そして、毎回決まった時間に着くという規則性は海外では崩れてしまい、日本ですら様々な事情で遅れが出るのは知っての通りです。それでも、電車が時間通りにつかない筈の外国で電車と自閉スペクトラムの関係について大真面目に調べられていました。では、不変性や規則性以外に惹かれる理由があるというのでしょうか。

他の通説というと、以下の通りです。
「障害者は行動範囲が狭く、電車より強い刺激がないから」
「路線や駅名など覚えることが大量にあるから」
「アナウンスが好きだから」
「バリアフリーや障害者割引があるから」
「単なる認知バイアス」

何であれ、電車と自閉スペクトラムの関係をより深く調べたいのであれば、海外の記事に頼るしか方法はないと思います。国内で書かれていることだけでは薄っぺらい部分しか分かりません。英語の記事とて翻訳してみると案外大したことが書かれていないのかも知れませんが。

人は信じたいものを信じる
最近のネットは、感動ポルノならぬ「愚者ポルノ」が流行っているように感じます。虚実問わずおかしな者の情報をネット上に晒し、一斉に叩いて気持ち良くなるムーブのなんと多いことでしょうか。虚実は問わないので、作り話であっても叩き活動する分には何の問題もありません。

その「叩き活動」には物事の過剰な単純化を伴います。鉄道マニアは迷惑撮り鉄一本のみと再定義し、ASDに留まらず発達障害全体に対象を拡大し、「迷惑撮り鉄は発達障害で、発達障害は迷惑撮り鉄なのだ!」と新法則を提唱するくらいにです。

「撮り鉄の行動原理」として、ある個人ブログの一記事が取り上げられたことがあります。記事では「撮り鉄はほとんどがアスペルガー男性。特定の構図にこだわるあまり、邪魔な人や物があれば怒って排除しようとする」と触れられており、これに赤べこの如く頷き賛同する意見が多く見受けられました。

しかし、そのブログ主は「全く新しい心理学を提唱する」などと聞いたこともないオリジナル心理学を推し進める胡散臭い人間でした。他の記事では「DSM-Vでアスペルガーなどが『自閉スペクトラム』に統合されたのは、診断を出す医者が金儲けしたいからだ!」などと、独特の強い思想をお持ちのようで、正直鵜?みにしてはならないタイプです。

普段強い思想を剥き出しにしている人でも、オリジナルの発達障害論で共感を得てしまうのは何故でしょう。撮り鉄憎し、あるいは発達障害憎しでの賛同であることは窺えます。となれば結局、人は自分の信じたいものを信じる生き物だというだけの話になるのでしょうか。

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