2022年11月18日 14時45分

秋の風物詩とも言える稲刈りシーズンを終えた、全国有数の米どころ、宮城県。いまも刈り取った稲わらを乾燥させるため、棒にかけられた風景をちらほらと見ることができます。

そんな中、地元の文化を研究する専門家から、ある話を聞きました。

「全国的に稲わらが手に入りづらくなっているんです」

東北では見慣れた風景の稲わらに何が起きているのか。取材を始めたところ、ポイントはその「長さ」にありました。
(仙台放送局記者 岩田宗太郎)





何に使うの?大量のわらが倉庫に

倉庫の中に所狭しと積まれた大量の稲わら。
この稲わらを求めて、北は北海道から南は沖縄まで全国から注文が相次いでいます。

園芸用としてホームセンターからの注文のほか、わらを使った納豆を製造する食品会社、しめ縄を作る神社、カツオの「わら焼き」を製造する水産加工会社など、購入する業種はさまざまです。

販売しているのは宮城県石巻市にある畳の製造と販売を行っている会社です。

130年ほど前から畳作りを行っているというこの会社では、化学素材を使用した畳が主流となったいまでは珍しい、伝統的ないぐさと稲わらを使った畳を製造しています。


佐々木正悦会長
「我々の畳はもう1000年ぐらいの歴史があって、稲わらといぐさの組み合わせです。稲わらの畳は断熱性や保温性にものすごくすぐれている。今は、稲わらを使わない、化学素材の畳が大半を占めるようになって、稲わらの畳のシェアは1%、もしかしたら1%以下ぐらいかもしれない。特別なものになってしまいましたが、本来の本物の畳はわらです」






お米の収穫期である秋、わらが手に入らない

畳の製造と販売を行う会社が、稲わらの販売を始めたのは5年前。なぜ全国から注文が相次いでいるのか。

その背景には稲わらの「長さ」があるというのです。

そもそも、伝統的な畳を作るためには、80センチほどのわらが必要だといいます。

しかし、会社によると、この長さの稲わらが手に入りづらくなっているというのです。

稲わらの文化に詳しい仙台市歴史民俗資料館の学芸員、渡邉直登さんに話を聞くと、その理由が、農業の機械化にあると指摘します。

渡邊さんによると、コメ作り農家では、以前は手作業で稲刈りを行い、束ねて乾燥させていましたが、これが農家にとっては大きな負担となっていました。

このため稲刈りの効率化を図ろうと機械化が進み、コンバインが導入されるようになります。

コンバインでは、刈り取った稲を機械の中で脱穀し、もみと分離。残った稲わらは細かく刻まれて田んぼにまかれることになりました。

細かく切り刻まれた稲わらは、そのまま肥料として活用されたり、燃やして処分されたりするため、丈の長い稲わらが残らなくなってしまったというのです。

仙台市歴史民俗資料館 渡邉直登学芸員
「高度経済成長期以降なんですが、稲わら以外の素材がいろいろと出てきた。わらじなども、ゴム草履とかゴム長靴とかに変わっていく新しい素材が出てきますので、稲わらを利用する場面が非常に少なくなっていき、さらにコンバインの普及で、長い素材としての稲わらも残らなくなっているというのが現状です」




稲わらの畳の需要減り畳業者も次々廃業
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221118/k10013894851000.html