東京都内で今春卒業する公立中学校3年生のうち、全日制の高校を第1志望とした割合が、調査を開始した1976年度以降で初めて9割を切った。一方で、校舎に通う必要がない通信制を志望する生徒の割合は増えている。背景にあるのは何か。学びの多様化が進んでいるとも言えるが、課題はないのだろうか。(大杉はるか)
 都教育庁が実施した進路志望調査(先月12日時点)の結果によると、今春卒業予定の約7万7700人のうち、全日制志望者の割合は89.28%で、7年連続で過去最低を記録した。それ以外で目立つのは私立通信制(一部定時制含む)の志望者で、4.26%を占めており、17年度の1.33%と比べ3倍強になった。
 都の担当者は「コロナ禍でオンライン授業へのハードルが下がったからでは」と推測するが、それだけでは説明がつかない。
 通信制への進学増は全国的な現象だ。文部科学省の資料によると、少子化の中、全日制高校の生徒数は、00年の約417万人から21年には301万人に3割近く減少した。ところが、通信制は同時期に、約18万2000人から約21万9000人へと2割増えた。
 押し上げているのは私立通信制で、約7万4000人から約16万5000人に倍増。公立は約10万8000人から約5万4000人に減っている。
 背景には、03年の構造改革特区法改正で株式会社による学校設置を認めた規制緩和がある。私立通信制は00年の44校から、21年には183校と4倍に激増。公立の生徒も取り込む形になった。
 なお18年の文科省委託調査によると、3都道府県以上で教育する広域通信制高校では、過去に不登校経験がある生徒が66.7%を占めた。文科省によると、小中学校の不登校の児童生徒数は、21年度に約24万5000人で過去最多を記録。通信制進学増と不登校問題は関係がありそうだ。
 心配されるのが急増した通信制の「質」だ。15年にはウィッツ青山学園高校の就学支援金不正受給や実態のない教育が問題になった。同校以外でも、文科省の有識者会議で「定められた面接指導が実施されていない」「教員以外が添削指導している」などの不適切事案が報告されている。広域通信制の場合、認可元の都道府県の監督が行き届きにくいという課題もある。
 文科省は曖昧だった教員の配置基準について、4月から生徒80人当たり教員1人とする。同省担当者は「多様な生徒のセーフティーネットとして機能している面があるが、学費を取って卒業資格を与えるだけではいけない」と説明する。
 明星大の樋口修資のぶもと教授(教育行政学)は「新自由主義的な教育改革で、株式会社による運営が認められ、利益至上主義になっている学校も、残念ながらある」と指摘。「不登校の生徒の受け皿になっているのは事実で、その対象者は増えている」とし、通信制の生徒数が今後も増えるとの予測のもと「『標準仕様』を文科省がつくり、質を担保することが重要だ」と強調した。
 埼玉大の高橋哲准教授(教育法学)は通信制進学増について「全日制や定時制高校の統廃合が進んでいるほか、特別支援学校高等部も不足し、通う高校が少なくなっている」と構造的要因を挙げる。
 「都道府県にとっては高校1校をつぶすのは財政的にメリットがあるため、少子化を理由に廃校を加速している」という点から、受け皿化している通信制の拡大が続くと予想しつつ、こんな懸念も示す。「最高裁判決でも教育を受ける権利の保障には、直接の人格的接触が不可欠と言っている。対面授業が機械的に減らされれば、人間としての全面的な発達を阻害する可能性がある」

東京新聞 2023年1月17日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/225632