奈良県知事選(4月9日投開票)で、自民党県連会長を務める高市早苗・経済安全保障担当相の政治手腕に疑問の声が上がっている。推薦を求めた現新2氏への対応を巡って県連内が混乱。高市氏との意見の食い違いを理由に、選挙対策委員長の県議が役職の辞任届を出すほど事態は深刻化している。県連は支援態勢の一本化を調整するよう党本部に求めているが、収束する気配は見えない。

議論紛糾、高市氏に一任で最終決定
 「選挙対策委員会で決定したこと。一致団結し、推薦した候補を勝たせる」。知事選の対応を決めた1月15日の県連選対委員会の終了後、高市氏は報道陣にこう強調した。


 県連はこの日、無所属新人の元総務官僚、平木省氏(48)を推薦する方針を決め、党本部に上申することになった。平木氏は高市氏が総務相だった時に大臣秘書官を務めた「側近」とされる人物。5選を目指して推薦を求めていた無所属現職、荒井正吾氏(78)への支援は見送ることになった。県連はこれまで荒井氏を推薦してきた経緯がある。

 選対委員会での議論は紛糾した。会合は非公開で、代理を含めて委員の国会議員や県議ら計24人が出席。4期にわたる県政運営を評価して荒井氏を支援すべきだという声と、若返りのために平木氏を推す意見がそれぞれあった。党本部への相談を求める案も出た。しかし、高市氏は「絶対に決める」と、この日の決定に固執。最終的に判断は高市氏に一任されることになり、平木氏の推薦方針が決まった。


 実はこの選対委員会が開かれる数日前、一部の出席者に「県連選対委員会の進め方」と題した数枚の紙が示された。毎日新聞が入手した文書には、荒井氏を推す意見にどう反論するかや、平木氏推薦に反対する意見への対処法が記されている。採決をとらないようにするとの注意書きもあった。複数の委員へ取材すると、実際に当日、文書と同様の発言をした委員が複数おり、事前のシナリオに近い形で進められた。ある委員は「もし採決していたら、荒井氏と平木氏は拮抗(きっこう)した結果となっていたはずだ」と取材に明かした。

 「えげつない。そこまでやるのか」。文書の存在を知った荒井氏は、逆に出馬への意欲を強めた。自民党参院議員を務めた経験などから党のベテラン国会議員らに人脈を持つ荒井氏は、県連の決定に納得がいかず、選対委員会の2日後に上京して党幹部らに異議を唱えた。党幹部も選対委員会の文書の内容を把握していたという。


 これに対し、平木氏を支持する県議や首長らは2月21日、党本部で茂木敏充幹事長と面会。選考過程の正当性を説明し、平木氏の推薦を認めるよう求めた。荒井氏、平木氏の両陣営から支援の一本化を求められた党本部は、対応に頭を悩ませている。
(略)

「高市氏はやり方がまずかった」
 荒井氏への包囲網が敷かれたのは、2022年9月に高市氏が県連会長に就いた直後からだ。県政関係者によると、高市氏を支援するベテラン県議や高市氏の秘書が10月に荒井氏を訪ねた。荒井氏がその場で見せられたのは、党本部が実施したとされる情勢調査結果だ。日本維新の会、共産が候補を擁立すれば荒井氏は苦戦するとの内容だったという。

 不出馬を迫られていると受け取った荒井氏は反発。12月に平木氏が出馬を表明した後、年末に党本部の森山裕・選対委員長と極秘で面談した。そこで党本部から出馬への一定の理解が得られたと見込むと、年明け早々の1月4日に立候補を表明した。

 保守分裂の事態に、ある県連幹部は嘆いた。「高市氏はやり方がまずかった。荒井氏としっかり対話もせずに平木氏の擁立に動いたことで、分裂を招いてしまった」

 一方、県政界には荒井氏への不満も広がっていた。(略) 知事は市町村に対する補助金などで大きな権限を持つ。県より弱い立場の市町村のトップが選挙支援を担う後援会代表を兼ねていることに、一部からは「踏み絵を踏まされている」という声もあった。ある県議は「荒井氏の知事としての成果は素晴らしいが、高齢多選批判もある」と指摘する。

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 自民の混乱を突くように、維新は弁護士で元奈良県生駒市長の山下真氏(54)を擁立した。告示1カ月前の2月23日にはさっそく、全国的な知名度を誇る吉村洋文・共同代表(大阪府知事)が街頭で支援を呼び掛ける力の入れようだ。大阪府以外で初の公認知事誕生を目指す維新。自民はどう挑むのか。告示が3月23日に迫るが、保守分裂のまま選挙戦に突入する公算が大きく、高市氏の対応に注目が集まる。(略)【久保聡】

毎日新聞 2023/3/17 07:15(最終更新 3/17 07:15) 2242文字
https://mainichi.jp/articles/20230316/k00/00m/010/330000c