生活保護を申請した人の親族に仕送りができるかを聞く扶養照会について、厚生労働省は2021年、より慎重な運用を自治体に求める文書を出した。照会によって生活保護の申請を親族に知られることを嫌い、申請をあきらめる要因になっているとの指摘もあるためだ。その結果、少しずつ扶養照会の仕方を変える自治体も出てきている。

 「70歳以上」「10年間程度音信不通」「借金をしており、扶養照会をすると返済を迫られる」――。

 徳島市は2021年度から、扶養照会を希望しない生活保護の申請者に「扶養義務者の状況申告書」を渡し始めた。親族の名前や続き柄を書いて、一覧のなかから照会をやめてほしい理由を選んで提出できる。担当者によると、うそがないことを確かめたうえ、原則として照会はしないという。

 同市は、2020年度には扶養照会の対象者としてリストアップした1550人のうち82・8%に照会していたが、21年度は1951人のうち57・0%まで照会した割合が下がった。扶養が「期待できない」と判断した親族の実数が約3倍に増えたことがおもな理由だ。

 担当者は、これまでも申告書と同じ内容は聞き取りをしていたと説明したうえで、「書類があった方が希望を伝えやすい申請者が多かったからではないか」と話す。

 東京都足立区は2021年度から、申請者が照会を希望しない場合は同意するまで照会を「保留」するようになった。このため20年度には1689件あった照会が、21年度は半分強の910件に。「保留中」のケースが増えたことがおもな理由だという。

 担当者は「無理に照会をしても受給者との関係を悪くするだけ。同意が得られるかどうか、急がずに親族との関係の変化を見ていく」と話す。

 さらに2022年4月からは徳島市と同様、扶養が期待できない親族を該当する理由とともに挙げてもらう申請書を渡している。担当者によると、「文書で書いてくれることで内部的にも引き継ぎがやりやすくなる。聞き取りもスムーズになった」という。

 東京都中野区も、照会を希望しない場合は照会を「保留」している。同区は2018年、申請者への聞き取りや、扶養照会を一手に引き受ける「新規係」をつくった。申請者の同意を得てから照会するようにしたのもこのころだという。「本人が望まないのなら、無理に照会しない。広くやろうとするときりがないし反発もある」と話す。

 こうした各区の動きもあり、東京都は2022年2月、申請者が照会を拒否する場合は照会を保留して理解を得るよう促す事務連絡を都内の自治体に出している。

 ただ、朝日新聞の調査では、全国59自治体が扶養照会の対象者としてリストアップした親族のうち、実際にどれだけ照会したかを計算すると5・5%から78・0%までばらつきがあるなど、自治体によって運用は大きく異なったままなのが現状だ。(川野由起、贄川俊)

朝日新聞 2023年3月30日 6時00分
https://www.asahi.com/articles/ASR3S76KVR3RUTFL01F.html?iref=comtop_7_07