酒税改正、ビールの価格はどう変わる?
3種類あるビール系飲料の酒税改正は2020年から3段階で始まり、まずビールが減税、第3のビールが増税された。第2弾の今年もビールが下がる一方、第3のビールは発泡酒と同じ税額に引き上げられて一本化される。最後の26年にはビールと発泡酒の税率が統合される。
今年の改正の具体例では、ビールは350ミリリットルあたり6・65円減税に、第3のビールは9・19円の増税となる。これを反映し、大手4社は主力のビールを値下げする。アサヒの「スーパードライ」、キリンの「一番搾り」、サッポロの「黒ラベル」などは、コンビニエンスストアの店頭想定価格(231円前後)が6円程度下がる見通しだ。一方、飲食店向けの業務用ビールは、減税はされるものの、たるや瓶などの回収費用や洗浄費用のコスト高などを反映させ、値上げとなりそうだ。このため、飲食店での販売価格は上がる可能性がある。
前回(20年)のビール減税はビールカテゴリーの底上げにつながった。新型コロナウイルスの感染拡大による「家飲み需要」も追い風になり、「想定以上のビール回帰が起こった」(アサヒビールの松山一雄社長)という。期待をかける各社は減税を機に、クラフトビールや低アルコールビールなどの健康志向の新商品などを相次いで発売する予定だ。
サントリーの動きに他社はピリピリ
酒税改正で熱を帯びるシェア争いの中、業界内外で注目されているのが、サントリーが今年4月に発表した「サントリー生ビール」だ。店頭想定価格は350ミリリットルで218円と、他社の競合商品より約10円安い。各社の定番ビールの中でも価格で優位に立ったこの商品は、発売3カ月で200万ケースを突破。23年の販売計画も当初の300万ケースから400万ケースへ上方修正した。
サントリーはウイスキーで圧倒的な強さを誇るが、ビールでの主力は高価格帯の「ザ・プレミアム・モルツ」。「スーパードライ」や「一番搾り」「黒ラベル」といった競合商品がひしめく定番のジャンルでは後れをとる。また、同社の主力商品で第3のビール「金麦」は、今回は増税の部類に入り、逆風となる。26年の税率一本化までに、定番ビールで主力商品を育てたい狙いがあるとみられる。
「数円で消費者の動きが大きく変わる業界」(業界関係者)の中で、サントリー生ビールの約10円の差は小さくない。ビール類の市場全体では、若年層のビール離れや消費者の健康志向などもあり、1990年代半ばをピークに減少傾向が続く。厳しい環境の中でも価格設定には敏感で、原材料高などが進んだ昨年、各社はようやく14年ぶりに主力の缶ビールの値上げに踏み切ることができた。
増税半年前に低価格帯を発売したサントリーの動きに、競合他社の関係者は「(各社が疲弊する)低価格競争は避けたかったが足並みが乱れた。市場が縮小する中で10円も下げるのはおきて破りなのでは」と神経をとがらせている。
RTD市場も主戦場に
火花が散るビール市場同様に、競争が激しくなりそうなのが缶チューハイなど、ふたを開けてすぐ飲める「RTD(Ready To Drink)」と呼ばれる市場だ。今回は第3のビールの酒税が上がり、各社とも値上げされる見通しだ。一方のRTDは、10月以降も税率が28円で据え置き。第3のビールを選んできた消費者の流れ込みを狙い、各社は甘くない無糖の新商品を強化するなどしてその「受け皿」にしたい考えだ。
10月に「キリン 上々 焼酎ソーダ」を発売するキリンは、「食事を邪魔せずおいしく引き立てる味わい」とPRし、サバのみそ煮や肉じゃがといった和食との組み合わせを紹介する。サッポロは9月12日に「サッポロ クラフトスパイスソーダ」を新発売。ジンジャーやコリアンダーなどスパイスをつけ込み、無糖で仕上げた。缶のパッケージには「新・食中酒」と記しており、テレビCMではしょうが焼きと合わせた飲み方を提案している。
原材料高や物価高による消費者の節約志向もある中で、酒税改正を「大きなチャンス」と捉える各社は、どう消費者の心をつかみ、各商品のシェアを広げていけるのか。力量が問われそうだ。【松山文音】
毎日新聞 2023/9/27 17:00(最終更新 9/27 17:00) 1906文字
https://mainichi.jp/articles/20230927/k00/00m/020/015000c