温度を変えると尺取り虫のように歩いたり、転がったりする不思議な有機化合物の結晶を、早稲田大と東京工業大の研究チームが開発した。硬い金属ではなく、柔らかい有機材料を使った次世代ロボットの実現につなげようと研究を進めている。
機械のように動く有機物
京都大の本庶佑(たすく)特別教授の医学・生理学賞受賞に日本中が沸いた今年のノーベル賞。2年前の化学賞は、有機分子で機械のように動く構造を作った欧州の3氏に贈られた。「分子機械」と呼ばれるもので、熱や光によって回転したり、収縮したりする。ただ、その大きさは100万分の1ミリ程度と肉眼では見えないサイズだった。
分子機械を集積し、目に見えるサイズで動かすことはできないか。早稲田大の小島(こしま)秀子客員教授らは、有機物の結晶を使ってロボットのように動き回る材料づくりに取り組む。
結晶というと、食塩や砂糖、水晶など身の回りにもある存在だが、いずれも「硬くて壊れやすい」イメージがある。しかし、小島氏は「結晶中でも、反応するときには分子が動く」ことに着目。この10年間で、光によって曲がるさまざまな有機化合物の結晶を開発してきた。
このような材料は「メカニカル結晶」と呼ばれており、研究が盛んになるにつれて屈曲したり、伸縮したりする多くのタイプが開発された。小島氏が次に目を付けたのが、同じ場所で運動するだけでなく、別の場所に移動できるロボットのような結晶だ。
研究に使ったのは「キラルアゾベンゼン」という有機化合物の結晶。光を当てるとねじれ曲がることや、加熱・冷却しても結晶が壊れないことを発見した。
これを細長い板状にしてホットプレートの上に置き、加熱していくと、わずかにアーチ形に曲がることも分かった。ホットプレートに当たっている裏側から温まるので、裏側の結晶構造が先に変化して長さが少し縮む。熱が十分に達していない表側の長さはそのままなので、アーチ形に曲がるというわけだ。
板の厚さは場所によって異なり、加熱すると厚い部分の方が大きく屈曲する。冷却して伸びるときは、軽くて摩擦が少ない薄い部分が押し出される形で動き、まるで尺取り虫のように移動した。
結晶構造が変化する温度は145度。この前後で加熱・冷却を繰り返すと、結晶は屈伸を繰り返し、厚さが薄い場所の方向に30分で1・5ミリ歩いた。
さらに、場所によって幅が異なる板状の結晶で実験したところ、加熱して曲がったときにバランスを保てず倒れ込み、加速度がついて鉛筆のように転がっていく様子も観察された。このときの移動スピードは秒速4・6ミリだった。
全文
https://www.iza.ne.jp/smp/kiji/life/news/181006/lif18100614250015-s1.html
機械のように動く有機物
京都大の本庶佑(たすく)特別教授の医学・生理学賞受賞に日本中が沸いた今年のノーベル賞。2年前の化学賞は、有機分子で機械のように動く構造を作った欧州の3氏に贈られた。「分子機械」と呼ばれるもので、熱や光によって回転したり、収縮したりする。ただ、その大きさは100万分の1ミリ程度と肉眼では見えないサイズだった。
分子機械を集積し、目に見えるサイズで動かすことはできないか。早稲田大の小島(こしま)秀子客員教授らは、有機物の結晶を使ってロボットのように動き回る材料づくりに取り組む。
結晶というと、食塩や砂糖、水晶など身の回りにもある存在だが、いずれも「硬くて壊れやすい」イメージがある。しかし、小島氏は「結晶中でも、反応するときには分子が動く」ことに着目。この10年間で、光によって曲がるさまざまな有機化合物の結晶を開発してきた。
このような材料は「メカニカル結晶」と呼ばれており、研究が盛んになるにつれて屈曲したり、伸縮したりする多くのタイプが開発された。小島氏が次に目を付けたのが、同じ場所で運動するだけでなく、別の場所に移動できるロボットのような結晶だ。
研究に使ったのは「キラルアゾベンゼン」という有機化合物の結晶。光を当てるとねじれ曲がることや、加熱・冷却しても結晶が壊れないことを発見した。
これを細長い板状にしてホットプレートの上に置き、加熱していくと、わずかにアーチ形に曲がることも分かった。ホットプレートに当たっている裏側から温まるので、裏側の結晶構造が先に変化して長さが少し縮む。熱が十分に達していない表側の長さはそのままなので、アーチ形に曲がるというわけだ。
板の厚さは場所によって異なり、加熱すると厚い部分の方が大きく屈曲する。冷却して伸びるときは、軽くて摩擦が少ない薄い部分が押し出される形で動き、まるで尺取り虫のように移動した。
結晶構造が変化する温度は145度。この前後で加熱・冷却を繰り返すと、結晶は屈伸を繰り返し、厚さが薄い場所の方向に30分で1・5ミリ歩いた。
さらに、場所によって幅が異なる板状の結晶で実験したところ、加熱して曲がったときにバランスを保てず倒れ込み、加速度がついて鉛筆のように転がっていく様子も観察された。このときの移動スピードは秒速4・6ミリだった。
全文
https://www.iza.ne.jp/smp/kiji/life/news/181006/lif18100614250015-s1.html