読売新聞2021/07/18 09:00
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210717-OYT1T50302/
オウム真理教による事件で、被害者への賠償が滞った状況が続いている。教団の後継団体主流派「Aleph(アレフ)」に10億円超の支払いを命じた民事訴訟の判決が確定したものの、アレフは支払いに応じていない。教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚(執行時63歳)ら教団元幹部13人の死刑執行から今月で3年となるが、被害救済は今も残された課題となっている。
「事件から長い歳月が過ぎ、被害者の高齢化が進んでいる。教団は一刻も早く、賠償金を支払うべきだ」。被害者支援にあたる「オウム真理教犯罪被害者支援機構」の中村裕二弁護士(65)はそう訴える。
教団は一連の事件後の1996年に破産。被害者ら約1200人が賠償金として届け出た債権は約38億2000万円に上った。アレフは2000年、被害者側への支払い義務を引き受けることを破産管財人と合意。教団資産の売却などで計約15億5000万円が配当され、09年に残りの債権が同機構に引き継がれた。しかし、支払いに向けた協議はまとまらず、同機構は18年、未払い分の支払いを求めて提訴した。
被害者らは08年に成立した「オウム真理教被害者救済法」に基づき、後遺症などに応じた給付金を国から受け取っているが、東京地裁は19年の判決で、給付金などを差し引いても、アレフには約10億2000万円の支払い義務があると判断。東京高裁と最高裁も支持し、賠償命令は昨年11月に確定した。
しかし、アレフはその後も賠償金を支払っていない。
民事訴訟で賠償命令が確定したにもかかわらず、被告側が応じない場合、原告側は強制執行の手続きを取ることができる。ただ、被告側の財産を具体的に特定する必要があり、同機構が差し押さえられたのは約4200万円にとどまる。アレフは全国24か所に拠点施設を設けているが、別組織の名義となっていることなどから、不動産の差し押さえは困難だという。
同機構は賠償金が得られれば被害者らに分配するとしており、中村弁護士は「今もサリンの後遺症に苦しみ、将来への不安を抱える人も少なくない。早く実現したい」と話す。同機構は国とも連携し、賠償金を早期に回収したい考えだが、実現の可否や時期は不透明だ。
◆オウム真理教 =地下鉄、松本両サリンや坂本堤弁護士一家殺害などの凶悪事件を起こした。1989〜95年の事件で計29人が死亡し、約6500人が負傷。昨年には、地下鉄サリン事件に遭い、闘病を続けていた被害者の女性が、サリン中毒による低酸素脳症で56歳で亡くなった。教団元幹部13人の死刑は2018年7月6日と26日に執行された。
保有資産を減額し報告…遺族「不誠実だ。強い怒り覚える」
アレフを中心とする後継団体はこれまで保有資産を増やし続けてきたが、近年、新たな動きが出ている。
後継団体は団体規制法に基づく観察処分の対象で、公安調査庁に対し、3か月に1度、保有資産や活動状況を報告する義務がある。同庁によると、2000年に計約6200万円だった資産は年々増加。19年10月末時点で計約12億9100万円に上っていた。
ところが、アレフは昨年2月以降、信者が関わる団体や会社といった「収益事業体」の資産は報告する必要がないと主張するようになったという。その結果、後継団体の保有資産は昨年10月末時点で約6億2000万円に半減。今年1月末にはさらに減り、約5億5300万円となった。同庁は、報告されなくなった資産は実質的にアレフのものだとみて修正を求めているが、アレフ側は応じていない。
アレフ広報部は取材に対し、観察処分を巡る行政訴訟の判決により、処分は個別の団体ごとに課されるとの判断が示されたと主張。「収益事業体を含む他の団体については、アレフが報告などの法的義務を課されることはない」と回答した。
地下鉄サリン事件で夫・一正さん(当時50歳)を失った「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさん(74)は「教団の対応は資産隠しと受け止めざるを得ず、不誠実だ。『賠償金を払いたくない』との意思を示しているように感じられ、強い怒りを覚える」と話している。
保有資産グラフ
https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20210717-OYT1I50150/
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210717-OYT1T50302/
オウム真理教による事件で、被害者への賠償が滞った状況が続いている。教団の後継団体主流派「Aleph(アレフ)」に10億円超の支払いを命じた民事訴訟の判決が確定したものの、アレフは支払いに応じていない。教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚(執行時63歳)ら教団元幹部13人の死刑執行から今月で3年となるが、被害救済は今も残された課題となっている。
「事件から長い歳月が過ぎ、被害者の高齢化が進んでいる。教団は一刻も早く、賠償金を支払うべきだ」。被害者支援にあたる「オウム真理教犯罪被害者支援機構」の中村裕二弁護士(65)はそう訴える。
教団は一連の事件後の1996年に破産。被害者ら約1200人が賠償金として届け出た債権は約38億2000万円に上った。アレフは2000年、被害者側への支払い義務を引き受けることを破産管財人と合意。教団資産の売却などで計約15億5000万円が配当され、09年に残りの債権が同機構に引き継がれた。しかし、支払いに向けた協議はまとまらず、同機構は18年、未払い分の支払いを求めて提訴した。
被害者らは08年に成立した「オウム真理教被害者救済法」に基づき、後遺症などに応じた給付金を国から受け取っているが、東京地裁は19年の判決で、給付金などを差し引いても、アレフには約10億2000万円の支払い義務があると判断。東京高裁と最高裁も支持し、賠償命令は昨年11月に確定した。
しかし、アレフはその後も賠償金を支払っていない。
民事訴訟で賠償命令が確定したにもかかわらず、被告側が応じない場合、原告側は強制執行の手続きを取ることができる。ただ、被告側の財産を具体的に特定する必要があり、同機構が差し押さえられたのは約4200万円にとどまる。アレフは全国24か所に拠点施設を設けているが、別組織の名義となっていることなどから、不動産の差し押さえは困難だという。
同機構は賠償金が得られれば被害者らに分配するとしており、中村弁護士は「今もサリンの後遺症に苦しみ、将来への不安を抱える人も少なくない。早く実現したい」と話す。同機構は国とも連携し、賠償金を早期に回収したい考えだが、実現の可否や時期は不透明だ。
◆オウム真理教 =地下鉄、松本両サリンや坂本堤弁護士一家殺害などの凶悪事件を起こした。1989〜95年の事件で計29人が死亡し、約6500人が負傷。昨年には、地下鉄サリン事件に遭い、闘病を続けていた被害者の女性が、サリン中毒による低酸素脳症で56歳で亡くなった。教団元幹部13人の死刑は2018年7月6日と26日に執行された。
保有資産を減額し報告…遺族「不誠実だ。強い怒り覚える」
アレフを中心とする後継団体はこれまで保有資産を増やし続けてきたが、近年、新たな動きが出ている。
後継団体は団体規制法に基づく観察処分の対象で、公安調査庁に対し、3か月に1度、保有資産や活動状況を報告する義務がある。同庁によると、2000年に計約6200万円だった資産は年々増加。19年10月末時点で計約12億9100万円に上っていた。
ところが、アレフは昨年2月以降、信者が関わる団体や会社といった「収益事業体」の資産は報告する必要がないと主張するようになったという。その結果、後継団体の保有資産は昨年10月末時点で約6億2000万円に半減。今年1月末にはさらに減り、約5億5300万円となった。同庁は、報告されなくなった資産は実質的にアレフのものだとみて修正を求めているが、アレフ側は応じていない。
アレフ広報部は取材に対し、観察処分を巡る行政訴訟の判決により、処分は個別の団体ごとに課されるとの判断が示されたと主張。「収益事業体を含む他の団体については、アレフが報告などの法的義務を課されることはない」と回答した。
地下鉄サリン事件で夫・一正さん(当時50歳)を失った「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人の高橋シズヱさん(74)は「教団の対応は資産隠しと受け止めざるを得ず、不誠実だ。『賠償金を払いたくない』との意思を示しているように感じられ、強い怒りを覚える」と話している。
保有資産グラフ
https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20210717-OYT1I50150/