東洋経済2021/08/25 5:00
https://toyokeizai.net/articles/-/450279
■デマ拡散で巨額の収益を上げる「反ワクチン産業」
その他、新型コロナワクチンの副反応に関しては、世界中で突拍子もないデマが流れている。
鉄が含まれるわけでもないのに注射部位に磁石がくっつく(腕にマイクロチップが埋め込まれる)、DNAに組み換えが起きる、女性は不妊になる、といった類だ。耳にしたことのある方も多いだろう。
悪質なのは、こうしたデマが意図的に、ごく一握りの人間の利益のために生み出され、世界中に拡散されていることだ。かつては「運動」レベルだった反ワクチンキャンペーンが今や「産業」にまで成長し、人類に不利益を生じさせている。
アメリカ・英国で展開している非政府組織CCDHの報告書によれば、今年2月1日から3月16日までの1カ月半の間に、主にFacebookとTwitterを通じて世界に81万2000件のワクチン関連デマが発信された。その65%は、わずか12人(22組織)の反ワクチン運動家の活動から生み出されたものだったという。
彼らは自然派を謳い、政府の陰謀説を流布し、新型コロナウイルスの存在を否定するなどして、ワクチンや医師を貶めようとしてきた。センセーショナルなメッセージが耳目を集め、今年3月までにSNS上でのべ5920万人ものフォロワーを獲得した。最新の報告書では、その数は6200万人を超えている。
反ワクチン業界は、そうして集めたフォロワー相手にセミナーを開き、会費を徴収し、サプリメントや本の販売などを行ってきた。CCDHの別の報告書では、業界全体の収益は年間少なくとも3578万ドル(39億円超)に上ることが示されている。のみならずアメリカ連邦政府の給与保護プログラム(PPP)からも、少なくとも合計151万ドル超(1億6600万円弱)の融資を受けている。
実質的にその片棒を担いできたビッグ・テック(Google、Facebook、Instagram、YouTube、Twitterといった世界的規模のアメリカIT企業群)に対しても、批判が高まっている。
Facebookを筆頭とするSNSプラットフォーム企業に対し、反ワクチン業界が有料広告などを通じてもたらす価値は最大11億ドルに上るという。その源泉は、誤情報に基づくフォロワーの誤った消費行動であり、フォロワーの被害の上に成り立っていると言ってよい。
今年3月には、アメリカ12州の司法長官がFacebookとTwitterに対し、新型コロナワクチンに関する誤情報への規制を強化するよう求めた(CNBC)。さらにホワイトハウスも7月、FacebookとYouTubeにはワクチンに関する誤情報の拡散への責任があり、対策が不十分であると指摘した(ロイター)。
SNS企業側も当然、誤情報の投稿を削除するなどの対抗手段をとってきてはいる。
8月19日にもFacebook(Instagramを含む)が、反ワクチン業界関連の30以上のページやグループ、アカウントを削除あるいは罰金を科したと、ロイターが報じた。
だが、対応は完全に後手に回っていると言わざるをえない。いたちごっこは目に見えている。
■ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる
SNSが怖いのは、発信者やシェア元が“知り合い”や“友達”であることだ。それは現実社会でのリアルな知人友人にとどまらない。インターネットでつながった人たち――いわゆるインフルエンサーや、同じ思想や志向等を共有する見知らぬ者同士のこともある。
自らが一方的に支持したり尊敬や憧れを抱いている相手や、心理的距離の近いネット仲間の言葉のほうが、互いに関心の薄い現実の知り合いよりむしろ影響を受けやすかったりするものだ。
ワクチンについて不安をあおるような情報が、身近な人から回ってくるかもしれない。どうか鵜?みにせずにいったん立ち止まって考えてみてほしい。誤情報に踊らされ、加担させられないよう、冷静に判断していただきたい。
今ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる。感染すれば、症状の出ていない子どもであってもウイルスを広める側になってしまう。まだ接種の受けられない幼い弟や妹に、家庭内で感染させる可能性も高い。
社会全体を危険にさらし、直接あるいは巡り巡って大切な人まで傷つけるかもしれないのだ。のみならず、その黒幕をますます潤わせてしまう。
何を信じるべきか。何が本当のリスクなのか。誰でも簡単に発信者になれる現在、情報はまさに玉石混交だ。
親世代が得てきた知識が今、あるいは10年後20年後子どもたちが大人になったときに、どの程度まだ役に立つかは非常に怪しい。それは自身が経験してきた過去を振り返ってみれば明らかだろう。
(一部略)
https://toyokeizai.net/articles/-/450279
■デマ拡散で巨額の収益を上げる「反ワクチン産業」
その他、新型コロナワクチンの副反応に関しては、世界中で突拍子もないデマが流れている。
鉄が含まれるわけでもないのに注射部位に磁石がくっつく(腕にマイクロチップが埋め込まれる)、DNAに組み換えが起きる、女性は不妊になる、といった類だ。耳にしたことのある方も多いだろう。
悪質なのは、こうしたデマが意図的に、ごく一握りの人間の利益のために生み出され、世界中に拡散されていることだ。かつては「運動」レベルだった反ワクチンキャンペーンが今や「産業」にまで成長し、人類に不利益を生じさせている。
アメリカ・英国で展開している非政府組織CCDHの報告書によれば、今年2月1日から3月16日までの1カ月半の間に、主にFacebookとTwitterを通じて世界に81万2000件のワクチン関連デマが発信された。その65%は、わずか12人(22組織)の反ワクチン運動家の活動から生み出されたものだったという。
彼らは自然派を謳い、政府の陰謀説を流布し、新型コロナウイルスの存在を否定するなどして、ワクチンや医師を貶めようとしてきた。センセーショナルなメッセージが耳目を集め、今年3月までにSNS上でのべ5920万人ものフォロワーを獲得した。最新の報告書では、その数は6200万人を超えている。
反ワクチン業界は、そうして集めたフォロワー相手にセミナーを開き、会費を徴収し、サプリメントや本の販売などを行ってきた。CCDHの別の報告書では、業界全体の収益は年間少なくとも3578万ドル(39億円超)に上ることが示されている。のみならずアメリカ連邦政府の給与保護プログラム(PPP)からも、少なくとも合計151万ドル超(1億6600万円弱)の融資を受けている。
実質的にその片棒を担いできたビッグ・テック(Google、Facebook、Instagram、YouTube、Twitterといった世界的規模のアメリカIT企業群)に対しても、批判が高まっている。
Facebookを筆頭とするSNSプラットフォーム企業に対し、反ワクチン業界が有料広告などを通じてもたらす価値は最大11億ドルに上るという。その源泉は、誤情報に基づくフォロワーの誤った消費行動であり、フォロワーの被害の上に成り立っていると言ってよい。
今年3月には、アメリカ12州の司法長官がFacebookとTwitterに対し、新型コロナワクチンに関する誤情報への規制を強化するよう求めた(CNBC)。さらにホワイトハウスも7月、FacebookとYouTubeにはワクチンに関する誤情報の拡散への責任があり、対策が不十分であると指摘した(ロイター)。
SNS企業側も当然、誤情報の投稿を削除するなどの対抗手段をとってきてはいる。
8月19日にもFacebook(Instagramを含む)が、反ワクチン業界関連の30以上のページやグループ、アカウントを削除あるいは罰金を科したと、ロイターが報じた。
だが、対応は完全に後手に回っていると言わざるをえない。いたちごっこは目に見えている。
■ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる
SNSが怖いのは、発信者やシェア元が“知り合い”や“友達”であることだ。それは現実社会でのリアルな知人友人にとどまらない。インターネットでつながった人たち――いわゆるインフルエンサーや、同じ思想や志向等を共有する見知らぬ者同士のこともある。
自らが一方的に支持したり尊敬や憧れを抱いている相手や、心理的距離の近いネット仲間の言葉のほうが、互いに関心の薄い現実の知り合いよりむしろ影響を受けやすかったりするものだ。
ワクチンについて不安をあおるような情報が、身近な人から回ってくるかもしれない。どうか鵜?みにせずにいったん立ち止まって考えてみてほしい。誤情報に踊らされ、加担させられないよう、冷静に判断していただきたい。
今ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる。感染すれば、症状の出ていない子どもであってもウイルスを広める側になってしまう。まだ接種の受けられない幼い弟や妹に、家庭内で感染させる可能性も高い。
社会全体を危険にさらし、直接あるいは巡り巡って大切な人まで傷つけるかもしれないのだ。のみならず、その黒幕をますます潤わせてしまう。
何を信じるべきか。何が本当のリスクなのか。誰でも簡単に発信者になれる現在、情報はまさに玉石混交だ。
親世代が得てきた知識が今、あるいは10年後20年後子どもたちが大人になったときに、どの程度まだ役に立つかは非常に怪しい。それは自身が経験してきた過去を振り返ってみれば明らかだろう。
(一部略)