入院か、療養か…感染した高齢者に適した対応は? 「原則入院」見直しが議論に介護現場からは戸惑いの声
? 病床逼迫ひっぱく時を除き、新型コロナウイルスに感染した高齢者は原則入院としてきた運用の見直しを、厚生労働省が検討している。入院治療が不要なら、「本人や家族が療養を選択できるようにすべきではないか」と専門家が提言した。高齢者は入院をきっかけにフレイル(心身の虚弱)が進むリスクがある。だが、往診する医師の不足や、療養によって高齢者施設内の感染が拡大する恐れがあり、介護の現場からは困惑の声が上がる。(原田遼)
◆フレイルのリスク 病床逼迫を避ける狙いも
厚労省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」のメンバーらは高齢者医療に関わる専門家と意見を交換。有志22人が6日、「ケア(介護)をより重視した療養場所の選択に向けた支援が不可欠。入院に伴って、日常生活動作が低下する事態は避けなければいけない」と政府に提言した。
有志によると、高齢者が新型コロナ感染で入院した場合、数日間であっても、身体機能や認知機能を低下させるリスクがある。コロナ病棟の看護師が介助に不慣れだったり、日々の歩行訓練などをできなかったりするためだ。第6波では、入院後のフレイル進行により、コロナの病状が収まった後、介護をより必要とする別の施設に移る高齢者が目立った。
感染が急拡大した時、病床の逼迫を避ける狙いもある。提言をまとめた武藤香織・東京大医科学研究所教授は「入院しないと治療が困難な高齢者を入院させられる体制を維持するためには、原則入院を目指す方針では難しい」と話す。
◆職員に感染拡大 往診医の確保課題
一方、「高齢者施設の運営者からは『原則入院を維持してほしい』という意見も聞く」。有志の1人、釜萢敏・日本医師会常任理事はそう明かした。多くの施設が隔離できる状態になく、十分な治療をすることも難しいためだ。
都内のある施設は1月に保健所から、感染した入所者の施設内での療養を求められた。だが、数日間、往診してくれる医師が見つからず、施設長によると、職員の多くが感染し、結果的に介助をする人手が足りなくなった。
施設長は「入院によってフレイルが進行するのはよくない」と提言に理解を示すが、クラスター(感染者集団)発生で勤務する職員が減れば、歩行訓練などの機会は減り、入所者のフレイルが進行する可能性が出てくる。「感染者の療養を求めるなら、往診医の確保や施設のクラスター対策強化への支援が必要だ」
専門家らと意見交換をした日本プライマリ・ケア連合学会の草場鉄周てっしゅう理事長は「療養させられるかは、施設の状況によって異なるだろう」と指摘。それでも「認知症になるよりも、住み慣れた場所で最期を迎えたいという人もいるので、それを支援する枠組みはあってほしい」と訴える。
専門家組織のあるメンバーは「高齢者の治療の問題だけでなく、みとりのあり方を含めた踏み込んだ議論が必要だ」と話した。
東京新聞 2022年4月8日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/170411
? 病床逼迫ひっぱく時を除き、新型コロナウイルスに感染した高齢者は原則入院としてきた運用の見直しを、厚生労働省が検討している。入院治療が不要なら、「本人や家族が療養を選択できるようにすべきではないか」と専門家が提言した。高齢者は入院をきっかけにフレイル(心身の虚弱)が進むリスクがある。だが、往診する医師の不足や、療養によって高齢者施設内の感染が拡大する恐れがあり、介護の現場からは困惑の声が上がる。(原田遼)
◆フレイルのリスク 病床逼迫を避ける狙いも
厚労省に助言する専門家組織「アドバイザリーボード」のメンバーらは高齢者医療に関わる専門家と意見を交換。有志22人が6日、「ケア(介護)をより重視した療養場所の選択に向けた支援が不可欠。入院に伴って、日常生活動作が低下する事態は避けなければいけない」と政府に提言した。
有志によると、高齢者が新型コロナ感染で入院した場合、数日間であっても、身体機能や認知機能を低下させるリスクがある。コロナ病棟の看護師が介助に不慣れだったり、日々の歩行訓練などをできなかったりするためだ。第6波では、入院後のフレイル進行により、コロナの病状が収まった後、介護をより必要とする別の施設に移る高齢者が目立った。
感染が急拡大した時、病床の逼迫を避ける狙いもある。提言をまとめた武藤香織・東京大医科学研究所教授は「入院しないと治療が困難な高齢者を入院させられる体制を維持するためには、原則入院を目指す方針では難しい」と話す。
◆職員に感染拡大 往診医の確保課題
一方、「高齢者施設の運営者からは『原則入院を維持してほしい』という意見も聞く」。有志の1人、釜萢敏・日本医師会常任理事はそう明かした。多くの施設が隔離できる状態になく、十分な治療をすることも難しいためだ。
都内のある施設は1月に保健所から、感染した入所者の施設内での療養を求められた。だが、数日間、往診してくれる医師が見つからず、施設長によると、職員の多くが感染し、結果的に介助をする人手が足りなくなった。
施設長は「入院によってフレイルが進行するのはよくない」と提言に理解を示すが、クラスター(感染者集団)発生で勤務する職員が減れば、歩行訓練などの機会は減り、入所者のフレイルが進行する可能性が出てくる。「感染者の療養を求めるなら、往診医の確保や施設のクラスター対策強化への支援が必要だ」
専門家らと意見交換をした日本プライマリ・ケア連合学会の草場鉄周てっしゅう理事長は「療養させられるかは、施設の状況によって異なるだろう」と指摘。それでも「認知症になるよりも、住み慣れた場所で最期を迎えたいという人もいるので、それを支援する枠組みはあってほしい」と訴える。
専門家組織のあるメンバーは「高齢者の治療の問題だけでなく、みとりのあり方を含めた踏み込んだ議論が必要だ」と話した。
東京新聞 2022年4月8日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/170411