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5.1. 結論 現在の税・社会保障の制度を前提にした場合、移民政策の純便益は-54.2 億円であり、負
の値をとる。したがって、移民政策の導入は推奨されない。これは主として、移民を受け入
れることの政策費用が大きく財政面に負の影響がもたらされるからである。この影響は移
民の納める税・社会保険料によってもカバーされず、労働市場に生じる余剰も微小であって
結果を覆すものではない。この結果は、移民の出生率、女性比率、帰国率といったパラメー
ターを変化させた感度分析によっても維持される頑健なものである。
なお、費用便益分析の関心とは離れるが、この結果を主体ごとに整理すると以下のような
影響が示唆される。はじめに政府は移民からの税・社会保険料の受領より移民に対して多く
の政策費用を負担するため負の影響を被る。他方、移民二世以降はその逆であるから正の影
響がある。また企業は労働供給が増加することで、全体で微小とはいえ、正の影響を受ける。
他方、そのうちの一部の余剰は日本人労働者から移転したものであるから、日本人労働者に
してみれば負の影響がある。このように整理することで、移民政策による影響を構造的に理
解するのが可能になり、また各主体の関心に応えることができると考える