https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-46040689

トランプ氏に権限はあるのか、米国籍の出生地主義を廃止方針 歴史的経緯は
2018年10月31日

ドナルド・トランプ米大統領は、米国で生まれた人は米国籍を取得するという憲法上の権利を、大統領令によって廃止したい方針だが、果たして大統領にその権限はあるのか。

ニュースサイト「アクシオス」のインタビューでトランプ氏は、米国で150年前から続く国籍の「出生地主義」原則を廃止するつもりだと述べた。

「改憲が必要だとずっと言われていたんだが、実はどうだと思う? そんなことないんだ」、「議会制定法でできるのは間違いない。でもそれどころか、単に大統領令でできるらしい」とトランプ氏は述べた。

トランプ氏は、そのための大統領令を準備中だと話した。このインタビュー公表から間もなく、リンジー・グレアム上院議員(共和党、サウスカロライナ州)はツイッターで、「トランプ大統領が提案する大統領令と同様の内容で、法案を提出するつもりだ」と明らかにした。

大統領の発言を機に、果たして大統領が単独でそのようなことをする権限があるのかについて、激しい議論が起きている。さらには、米国への不法移民が国籍出生地主義を悪用しているという主張に、正当性はあるのかどうかをめぐっても、異論が衝突している。

(1) 国籍の出生地主義とは

「合衆国内で生まれ、または合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である」という合衆国憲法修正第14条の冒頭が、出生地主義の原則を定めている。

移民受け入れに対する強硬派は、この決まりは「違法移民を引き付ける磁石」のようなもので、妊娠中の女性が違法に米国に入り出産する、いわゆる「妊娠ツアー」や「アンカー・ベビー(米国で生まれ米国社会定住のための『碇(いかり)=アンカー』の役割を果たす赤ちゃんの意味)」と侮蔑的に呼ばれる行為を促進していると主張する。

「そうやって生まれる赤ちゃんは要するに85年間、米国市民なわけだ。それに伴う福利厚生を全てもらえる。馬鹿げている。やめさせなくては」と、トランプ氏は述べた。

米ピュー研究所が2015年に実施した調査では、米国民の60パーセントが「出生地主義」原則の廃止に反対という結果だった。一方、廃止賛成は37パーセントだった。

(2) 出生地主義の由来は

修正第14条は1868年、南北戦争終結後に採択された。修正第13条が1865年に奴隷制を廃止した後、修正第14条が米国で生まれた解放奴隷の市民権を確定した。

1857年のドレッド・スコット対サンドフォード事件の判決をはじめ、1868年以前の連邦最高裁判決は、アフリカ系米国人は決して米国市民になれないと判断していた。修正第14条が、そうした一連の判例を覆した。

1898年になると連邦最高裁はウォン・キムアーク対米政府事件で、移民の子供にも出生地主義は適用されると確認した。ウォン氏は中国移民の両親のもとに米国で生まれた24歳だったが、中国訪問後に米国に戻ろうとすると再入国が許可されなかった。ウォン氏は裁判で自分は米国生まれなので修正第14条に保護されており、両親の移民資格は影響しないと主張し、勝訴した。

「ウォン・キムアーク対米政府判決は、本人の両親の人種や移民資格を問わず、米国内で生まれた全ての人間は市民権に伴うあらゆる権利を享受する権利があると確定した」、「司法はそれ以来、この件について判断を改めていない」と、米ミネソタ大学移民史研究センターのエリカ・リー所長は書いている。
(リンク先に続きあり)

ウォン・キムアークは米国で生まれたが、一度出国すると中国人排除法のため再入国が認められなかった
https://ichef.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/3426/production/_104105331_wongkimarknationalarchives.gif