トルコ政権、経済に死角 失業や低成長に国民不満
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【イスタンブール=佐野彰洋】トルコの大統領権限を強める憲法改正が16日の国民投票で承認され、エルドアン大統領は2029年までの長期政権に道を開いた。反政権側とみる勢力の弾圧などで
体制固めを急ぐが、強権的な手法や欧州との関係悪化は企業活動に悪影響を与えそうだ。都市住民などが失業率や物価の高止まりに不満を強め、経済が同政権の死角となる可能性もある。

国民投票の暫定結果は賛成51.4%、反対48.6%で改憲案は成立した。金融市場は賛成派の勝利をひとまず好感。株価や通貨リラは国民投票後に上げ、代表的な株価指数BIST100は
25日まで連日、最高値をつけた。市場は政情安定による経済好転を期待した。

だが経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)悪化に歯止めがかかる兆しはみえない。イスタンブールで中古車販売を営むムサ・カヤさん(37)は国民投票で憲法改正に反対票を投じた。
エルドアン氏と与党・公正発展党(AKP)を支持してきたが今回は「失望した」。毎月5台ペースの販売がいまでは月1台ほどに落ち込んだ。

1月の失業率は13%に達し、過去7年で最悪の水準だ。若年に限ると24.5%と、4人に1人は職がない。トルコでは人口が毎年100万人単位で増えているが、雇用増が追いつかない。

消費者物価指数(CPI)の上昇率は3月が11%と中央銀行の目標値の2倍以上の水準にある。中銀は26日、事実上の上限金利に用いる「後期流動性貸出金利」を12.25%に引き上げた。
3会合連続の引き上げでインフレ鎮静化を狙うが、効果はまだ表れてない。

16年の実質国内総生産(GDP)成長率は2.9%と15年の6%から大きく減速した。ロイター通信がまとめたエコノミスト50人による17年の成長率予想は平均2.6%と1月時点から
0.2ポイント低下、政府目標の4.4%を大きく下回る。

相次ぐテロやクーデター未遂事件の影響で外国人旅行者数はこの1年半ほど前年割れが続いている。旅行収入の減少や原油価格の上昇で経常赤字は膨らんでいる。

成長率の押し上げには間接税に偏った税収構造の見直しや労働市場の流動性アップなど構造改革が急務にもかかわらず、エルドアン政権は国内の引き締めを優先させる姿勢を変えていない。
昨年7月のクーデター未遂事件後に発した非常事態宣言は4月に延長。公務員や軍人の大規模追放や企業の接収は統治機構への信認を低下させ、経済活動は萎縮している。

欧州との関係悪化も経済の重荷だ。エルドアン氏は5月にベルギー、米国などを訪問し関係修復の糸口をつかむ考えだが、欧州の反応は冷めている。16年のトルコへの海外からの
直接投資額は前年比30%減の122億ドル(約1兆3千億)。欧州からは45%減った。

証券会社フィナンスインベストのブラク・カンル・チーフエコノミストは「原油安などによる成長の押し上げ効果はほぼ出尽くした。今後、グローバルな流動性が低下する
事態となれば、投資先の選別が強まり、トルコ経済は深刻なリスクに直面する」と分析する。

エルドアン氏の再選がかかる次の大統領選は19年11月、国会総選挙と同日実施になる。弱い経済に手つかずのままでは、盤石のはずの再選戦略が揺らぐ。