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2017/5/26 1:27

 【ブリュッセル=森本学、永沢毅】北大西洋条約機構(NATO)は25日、ブリュッセルで首脳会議を開いた。初出席となるトランプ米大統領は加盟国防衛への決意を示しながらも、各国が応分の財政負担をするよう改めて要求。首脳会議は「テロとの戦い」への関与拡大で合意し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開する米主導の有志国連合への参加を正式表明する。

 「テロ打倒と永続する安全と繁栄、平和の達成に向けた決意は決して揺るがない」。トランプ氏は首脳会議に関連する式典で、NATOの歴史的役割を評価し、対テロ戦やロシアの脅威に立ち向かう必要性を力説。2001年9月の米同時テロに触れ「NATOの同盟国は、その歴史で初めて第5条の集団的自衛権を発動し対応してくれた」と謝意を示した。

 米国が攻撃を受けた米同時テロでは、NATOが集団的自衛権を行使する条約第5条を発動。アフガニスタン攻撃に踏み切った。トランプ氏はこれに言及することで間接的な形で同盟国防衛への決意を示したといえる。

 冷戦期に対ソ連同盟として発足したNATOの根幹をなすのは、加盟国のいずれかが攻撃を受けた場合に他の加盟国が反撃する集団的自衛権の行使だ。トランプ氏は昨年の大統領選でNATOを「時代遅れ」と軽視する発言を繰り返し、欧州側ではNATOの対抗相手であるロシアとトランプ政権との関係に懸念が広がっていた。

 ただ、注文も忘れなかった。「最終的には公正に負担すべきだ」。トランプ氏は24年までに全ての加盟国が国防費を国内総生産(GDP)比2%に増やすNATO目標の達成を重ねて求めた。目標を達成しているのは加盟28カ国のうち米英など5カ国にとどまり、トランプ氏が不満を強める原因となっていた。

 首脳会議では、目標達成に向けた進捗状況を各国が毎年報告することで合意する。金額だけではなく、NATOが展開する作戦への貢献度の点検なども盛り込む。

 首脳会議はテロとの戦いへの関与拡大も議論する。「NATOが有志国連合の正式メンバーとなることで合意するだろう」。NATOのストルテンベルグ事務総長は25日、首脳会議開幕を前に記者団に強調した。

 NATOはこれまでもイラク兵に対する訓練などの支援を有志国連合にしてきた。加盟国はすでに個別に有志国連合に参加しているが、NATOとしての正式な参加表明で、IS作戦への関与強化という「政治的なメッセージ」を送る。テロ対策でNATOの役割拡大を求めるトランプ氏に応え、米欧の強い結束を打ち出す狙いもある。

 「数日前に起きたことを考えれば、テロとの戦いに勝つことがいかに大事かが分かる」。トランプ氏は24日、ISの関与が取り沙汰される英マンチェスターでの自爆テロを念頭にNATOの方針を歓迎。ティラーソン米国務長官も「とても重要な一歩になる」と期待を示した。

 ただ、ドイツやフランスなどが将来的な軍事作戦への発展を警戒していることに配慮し、ストルテンベルグ氏は「NATOが軍事作戦に携わることにはならない」とも強調した。有志国連合への空中給油などを柱に支援拡大を進める考えだ。

 首脳会議ではNATO本部にテロ情報を扱う専門部署を新たに設置することでも一致する見通し。海外でのテロとの戦いに関連するNATOの活動を調整する高官ポストを新設することも決める。有志国連合との情報共有も進める方針だが、英マンチェスターの自爆テロ事件の捜査情報を巡る英米の対立が連携に影を落とす懸念もある。