資源量が減少する太平洋クロマグロの回復につなげようと政府が設けた資源保護策が、承認を得ずに30キロ未満の小型魚を取ったり、漁獲量規制を守らなかったりする違反操業が続出し、骨抜きとなっている。静岡県では今年2月、漁業者4人が無承認でクロマグロを約1・5トン漁獲していたことが水産庁の調査で発覚。規制を守り収入減となった沿岸漁業者らに不信感が募る一方、関係者の間には保護への取り組みが不十分だとして日本への国際的な圧力が強化されることへの警戒感も強まっている。

 ■年50万円

 「生活を切り詰め、資源保護のため我慢している。不正が見逃されるなら、誰も規制を守らなくなる」と話すのは、小型クロマグロを狙う一本釣り漁で生計を立てる長崎県壱岐市の中村稔さん(49)。最盛期の2月下旬、同市の勝本漁港から北約20キロ沖で約15時間に及んだ漁で釣れたクロマグロ3匹は、規制対象の小型魚だった。海に戻したため、この日の収入はなかった。

 日本近海などに生息する太平洋クロマグロの資源量は、平成26年時点で約1万7千トンと最盛期の10分の1近い水準にとどまる。政府は、日米などが参加する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の合意に倣い27年、小型魚の漁獲量を14〜16年平均から半減する規制に踏み切った。

 政府はこの水準を守るため都道府県を通して各地の漁協などに漁獲枠を割り当てている。小型魚漁が中心の勝本町漁協では、配分枠の139トンを市内の承認船557隻に分けると年間250キロ、最大約50万円の収入しか得られず、中村さんは「今の規則は枠が少なく割に合わない」とこぼす。

 ■公約違反

 規制を守る漁業者が多い半面、違反も相次ぐ。本県や長崎、和歌山両県で無承認の船が漁をしていたほか、三重県でも自粛要請を無視したケースが発覚。こうした中、水産庁は漁獲上限を上回らないよう太平洋南部、瀬戸内海、九州西部など4ブロックに操業自粛を要請したが、4月末には小型魚の国内漁獲量が国際合意した年間漁獲量の上限4007トンを初めて超えた。

 宮城県気仙沼市を拠点に大西洋やインド洋で遠洋はえ縄漁業を営む勝倉宏明さん(49)は「国際公約を消費国の日本が破れば国際的な圧力が強まり、自然動物保護の観点から流通が止まる可能性すらある」と懸念する。

 厳しい規制で大西洋クロマグロの資源回復につなげた欧州などでは、トレーサビリティー(生産流通履歴)制度が確立し、不正に取ったマグロは市場に出回らない管理制度が確立しているという。日本政府も罰則を設けるなど規制を強化する予定だが、制度の効果には依然疑問が残る。

■協力不可欠

 太平洋クロマグロは現行の規制が順守されれば十分に資源が回復する見込みだ。ただ日本に厳しい視線を送る米国がさらなる規制強化を提案しているほか、一部の専門家は産卵期(6〜8月)の親魚漁獲の規制を強化すべきだと主張している。

 資源管理に詳しい東京海洋大の勝川俊雄准教授は「今後も食卓で気軽にクロマグロを楽しむため、沿岸漁業者の生活も考慮した制度づくりとともに、(漁業者にも)高い規範意識が求められる」と、資源回復には政府と漁業者の協力が不可欠だと指摘した。

2017.6.5 14:58 産経新聞
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