誰にでもある、忘れてしまいたい過去。
“黒歴史”などと茶化してみても、その実、深く悩み傷ついたまま、ということは結構あるものだ。
そんな思い出すのもつらい記憶を、無自覚のうちに消去する技術がアメリカで開発されたという。

■つらい記憶を消去する技術が開発される

英紙「The Daily Mail」をはじめとする複数の海外メディアによると、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)をはじめとするアメリカの科学者チームが、脳内の酵素を研究した結果、被験者に過去の苦しい記憶を思い出させることなく、記憶により引き起こされる恐怖反応を和らげる技術を開発したと発表している。
この酵素は酵素シンテターゼ(ACSS2)と呼ばれ、何かを思い出そうとする機能と長期記憶の形成に働きかける。
この酵素を利用し嫌な記憶の部分を消し去ることで、PTSD患者やトラウマに苦しむ人の治療を目的としている。

まるで夢のような技術で、過去に囚われ苦しんでいる人には朗報に聞こえる。
しかし、最悪な記憶を消し去ることが、はたして本当に正しいことなのか疑問が残る。

この方法で脳内記憶を消去した場合、その後一生、消した記憶を思い出すことができないからだ。
人間は本質的に愚かだ。過去を振り返ることで、“最善”を選択することができる場合もあるのではないだろうか(学習能力がまったく欠如した人間もチラホラいるが)。

たとえば、レイプされた記憶を失ってしまえば、加害者と“初対面”で出会った時、何も知らずに親しくなってしまう可能性すらある。
また、他人の脳内をいとも簡単に乗っ取り、悪用しようとする輩も出てこないとは言い切れない。

■マインドコントロールに悪用される可能性

さらには、CIAなど政府諜報機関によるマインドコントロールや軍事作戦に使われるのではという声もささやかれている。
たとえば、政府の活動に異議を唱える執拗で目障りなジャーナリストがいたら、秘密裏に捕らえて脳内をクリーンアップするといった応用も可能だろう。
また、心理学の分野から警鐘を鳴らす者もいる。

「犯罪被害に遭った記憶を消し去れば、今後、たとえその犯罪そのものをイメージしようと試みても、なに一つ浮かばなくなり、頭が空白になったと感じるのです」(心理学者のジュリア・ショー博士)

そして、それが新たなストレスを生み出すことになったら、本末転倒だ。
従来の認知行動療法などでPTSDや不安症、うつ病が改善したケースも数多い。

人の脳から人工的に記憶を消し去るのは、今のところバッドアイデアの可能性が高いといえる。
むしろ、過去の悲しみを乗り越えるための「強いメンタル」の研究にでも注力していただけたらと思う。

http://tocana.jp/2017/06/post_13604_entry.html
http://tocana.jp/2017/06/post_13604_entry_2.html