暗闇の中、校舎に迫る濁流の音が不気味に響いた−。5日からの記録的な豪雨で周囲の川が氾濫し、翌朝まで孤立状態になった朝倉市杷木星丸の松末(ますえ)小。
記者は子どもやお年寄りを含む約50人の住民とともに校舎の3階に避難し、一夜を過ごした。一帯は停電し、食料はほとんどない。互いに励まし合いながら、じっと救助を待った。

「杷木の赤谷川が一部氾濫したようだ」。5日午後2時前、到着した市防災交通課でそう告げられた。車に乗り込み、川の近くにある自治組織「松末地域コミュニティ協議会」の事務所に向かう。
事務所では伊藤睦人会長ら職員が、携帯電話で集落の住民に「大丈夫か」と連絡していた。
車が立ち往生しているという赤谷川近くへ向かったが、朝倉署員が「これ以上は危ない」と通行止めに。事務所に戻ると、いつしか一帯は停電していた。

その後、バケツをひっくり返したような雨が降り、署員が「ここも危ない。近くの松末小に避難しましょう」と提案。高齢者を署員が背負いながら先導する。
その写真を撮っていると、膝下まで濁った水が流れ込み、やっとの思いで児童や住民らが避難している松末小に着いた。

校舎3階から運動場を眺めると、赤谷川と近くの乙石川が氾濫。30分もしないうちに、記者が歩いてきた道は跡形もなくなった。気付けば校舎の周囲に濁流が流れ込み、完全に孤立。
食べ物はほとんどない。午後8時半ごろ、懐中電灯で照らした黒板に、現状把握のため、教諭が避難者の名前を書き出した。4人の署員を合わせて約50人。「この50人は仲間。助けが来るまで頑張ろう」。署員の声に励まされた。

夜が更けるにつれ、子どもや高齢者は横になったが、多くの大人は窓の外を眺め、雨がやむのを祈った。暗闇の中、猛烈な雨は降り続き、校舎に迫る濁流や「ゴゴー」と近くの山が崩れる音が響く。
「いいかげんにしてくれ」。男性の叫びを聞きながら、学校が倒壊するのではないかと本気で思った。

午後9時半ごろ、雨が弱くなると、あちこちから「助かった」の声。午前0時には、ほとんどの人が横になったが、全く眠れない。隣の教室からは「怖い」と園児の泣き声が響いた。
一夜明けた6日。小学校近くの山崩れや濁流に呑み込まれた民家に絶句した。「自衛隊が救助に向かっているが、土砂が道をふさぎ、小学校まで着かない」。市災害対策本部からの連絡に、みな声を失った。

最終的には伊藤会長らの判断で、約50人は、安全な杷木中に向かうバスが待つ場所まで歩いた。
原稿を確認するため住民らと別れ、数時間後、伊藤会長に電話した。「全員元気だけど、まだ不明者がいる。今後、大変だけど、お互いに頑張ろう」。疲れ切った声だが決意を感じた。

松末小で一夜を過ごした後、引率者とともに校舎を離れる児童たち=6日午前9時35分、朝倉市杷木星丸
https://www.nishinippon.co.jp/import/f_toshiken/20170707/201707070002_000.jpg?1499374988

=2017/07/07付 西日本新聞朝刊=
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_toshiken/article/341208/