北陸の食品スーパーが、石川を舞台に出店競争を繰り広げている。

 全国的にみてもスーパー過密地だが、関係者は「まだ出店の余地はある」とみており、さながら“戦国時代”の様相だ。資本力を背景に大型店舗で攻勢を強める富山のスーパーに対し、石川は地元密着の対応で迎撃態勢を整えている。

 富山に本社を構えるスーパーは石川に出店しているがその逆はなく、「攻める富山、守る石川」の構図が鮮明となっている。店舗総数55店の「アルビス」(富山県射水市)、同39店の「大阪屋ショップ」(富山市)の富山の2大スーパーの出店競争が、舞台を石川に広げている格好だ。

総務省の統計(2014年)によると、石川の人口10万人当たりの百貨店・総合スーパーの店舗数は1・82店で全国6位。富山側から見ると、石川は「富山の物流網が流用でき、購買力も高い」と魅力的な市場に映る。

 富山のスーパーは近年、経営の効率化を目指し、建て替えなどによる店舗の大型化を進めている。

 北陸のスーパーで唯一、東証1部に上場するアルビスは昨年度、約30億円を投じて北陸3県で計7店を刷新した。象徴的な店舗が2016年10月開店の「アルビス明倫通り店」(石川県野々市市)だ。約2360平方メートルの売り場面積と517台の駐車場は前店舗のそれぞれ1・5倍で、屋外にイートインスペースを設置するなど、同社が目指す新たなスーパーのモデルケースとなっている。今年度はさらに3県の10店舗ほどで改装などを行う。

 低価格路線を強く打ち出す大阪屋ショップでは今年6月までの1年間で、富山、石川両県で1店の新規出店と4店での建て替えや改装を実施。大型化で集客力が向上し、1973年の設立から続く43年連続の売り上げ増につながった。大型化による豊富な品ぞろえで石川の人々の心をつかもうとしている。

 対する石川のスーパーは、「地元密着」で消費者の心をつかもうと躍起だ。「マルエー」(石川県白山市)は、単身世帯や若者などにピンポイントで照準を合わせた「mini」と呼ばれる小型店舗を金沢の中心街などで展開。「スーパーより手軽に入れ、コンビニより総菜などが豊富。中間の存在で使い勝手が良い」と好評で、年内に白山市で4店舗目が開店する。

 「カジマート」(同県津幡町)は、地元生産者の商品の充実を図りながら、パティシエや料理人経験者を雇って独自の本格的な総菜を提供する試みを始めた。鍛冶浩一専務は「スーパーは大きさではなく信用性が重要。質を高めて存在感を示したい」と話す。

 これまでは地元のスーパーしか展開していなかった能登地方にも「戦線」が広がっている。

 カジマートは4月、同県七尾市の駅前複合商業施設「パトリア」に能登初の店舗を開店。同社は、金沢と七尾の中間に物流拠点があるために事業展開しやすく、「十分商機がある」(鍛冶専務)と判断した。

 一方、大阪屋ショップは2016年11月に同県かほく市で、アルビスは15年4月に同県宝達志水町にそれぞれ出店している。進出コストが低いというメリットがあり、それまで「どんたく」(七尾市)など地場のスーパーが圧倒的な勢力だったこの地域まで競争が飛び火した形だ。

 互いの思惑が交錯するなか、一致しているのは「過度な価格競争は消耗戦に陥る」との見方だ。

 それを避けるべく、各スーパーは単純な価格競争ではなく、ニーズを絞ったサービスの充実で特色を出そうと躍起だ。アルビスの増田一男・経営企画室長は「まさにスーパー戦国時代。多様な消費者のニーズに応えられる企業が生き残るはずで、立ち止まることなく工夫や策を打ち出していく」と意気込んでいる。(向山拓)

http://yomiuri.co.jp/economy/20170708-OYT1T50125.html