閉鎖的なイメージの強い刑務所が、地元住民との交流を進めている。刑務所内を見学してもらったり、受刑者が食べる「監獄飯」を販売したり…。ユニークな試みを続ける背景には、出所した人が再び犯罪に手を染めないよう、雇用や住居の確保に向け、地域の理解を深めたいという事情がある。

 ずらりと並べられた将棋盤や積み木のおもちゃ。20万円を超える精巧な木製食器棚もある。10月下旬、矯正展を開催中の京都刑務所(京都市山科区)を訪ねた。地域住民を招く恒例行事で、今年で40回を数える。刑務官が受刑者の手作り品を来場者にアピールし、地元の更生保護女性会のメンバーがコーヒーを振る舞う。

 特に盛況だったのが所内の見学だ。記者も列に加わり、炊事場へ向かった。案内役の刑務官によると、受刑者が毎食調理し、カロリーも調整する。ホワイトシチューやサラダなど、この日の昼食メニュー4品が展示されていた。刑務所につきまとう「臭い飯」のイメージとはほど遠く、健康管理の行き届いた食事環境に驚いた。

 京都刑務所の敷地は広大で、甲子園球場約3個分に相当する。他に見学できたのは作業場や風呂などごく一部だったが、一緒に見学した刑務所近くに住む京都橘大2年平見真悟さん(20)は「塀の中から響く受刑者の掛け声にも、更生という目的があると分かった。施設は清潔で、人としての尊厳が保障されていると思った」と感想を話した。

 滋賀刑務所(大津市)でこの秋にあった矯正展では、受刑者向けレシピを基にした「監獄カレー」を販売した。「麦飯のにおいが独特」と好評で、200食(1食400円)を完売した。

 矯正展は全国の刑務所で行われているが、刑務所が地域との交流に力を入れるようになったのは、ここ10年余りのことだ。きっかけは、名古屋刑務所で2001年、男性受刑者が刑務官から虐待され死亡した事件。刑務所の閉鎖性、密室性が問題となり、06年に施設運営の透明性確保などを盛り込んだ刑事施設収用法が施行。施設開放などが進む中、昨年度の全国の矯正展来場者は約38万人で、統計を取り始めた08年度の約1・5倍に増えた。

 受刑者の再犯防止に向け、地域にかかる期待は大きい。犯罪白書によると、刑法犯で検挙された人に占める再犯者の割合は年々上昇し、16年は過去最悪の48・7%を記録した。出所後の仕事や住居確保は容易ではない。京都刑務所の加藤昇・首席矯正処遇官は「受刑者の更生支援は、刑務所だけで完結しない。地域の協力を得られるように努力を続けたい」と強調する。

 同刑務所は昨年12月、自然災害時に避難住民を所内に受け入れる訓練を初めて行い、住民約270人が足を運んだ。矯正展運営をサポートする保護司の大林眞弓さん(55)=山科区=は「刑務官が地域の催しに参加するようになるなど、刑務所職員の意識が変わってきた。刑務所の内外で、受刑者の更生に良い影響があるのではないか」と話す。

配信2017年11月19日 17時40分
京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20171119000064