先天性の難病のため病院で寝たきりの広島県大竹市の女児(10)が、タブレット端末を利用した分身のロボットを遠隔操作し、 学校への「登校」を続けている。
週1回、将来の自立のために買い物の仕方などを学び、放課後には、友達との駆けっこも楽しむ。

■タブレット操作、時速2・5キロで駆ける

「おはよう! 何しているの?」。
県立広島西特別支援学校の校内で、 タブレット端末を載せた台にタイヤを付けたような形のロボットが、教員や児童らに話しかける。
声の主は、小学部5年の女児。端末の画面には女児の顔が映っているが、本人は、同校に隣接する広島西医療センターのベッドの上だ。

女児は原因不明の難病で首から下は両腕しか動かせず、寝たきりの生活だ。
人工呼吸器を装着しており外出は難しい。

入学以来、学習は教員が病室を訪問する形で行ってきた。
4人部屋の病室の窓からの景色と、手鏡をかざして見る隣室の様子だけが、「外の世界」。
そんな毎日を、ロボットが変えた。

米国の企業が、美術館や学会など自分が行けない場所を訪れる道具として開発。
高さ1・2メートル、重さ約10キロで、 二つのタイヤで動く。

手元のタブレット端末を使い、インターネット経由で遠隔操作でき、カメラやマイクでテレビ電話のように会話できる。
同校は体の不自由な子どもの学習に活用できないかと考え、 約50万円で購入した。全国でも珍しい取り組みという。

女児は4月から週1回、学校にあるロボットを操作して、 ロボットに付き添う教員と病院の売店で買い物する時のお金の計算の仕方や、自分で書いた手紙をポストに 投函とうかん する方法を覚える学習をしている。
その後は児童生徒会の会議に参加したり、 友達とかくれんぼをして遊んだり。
時速2・5キロとゆっくりだが、駆けっこもできる。

ロボットを使い始めた女児に、変化が生まれた。
もともと軽い知的障害があったが、口数が増え、感情を表に出すようになった。
毎日の日記には、その日の出来事を教員に言われた通り書くだけだったが、 痛くて泣くこともある胃ろうの交換がスムーズに終わった日に、〈(今日は)な(泣)かなかったよ〉とつづり、周囲を驚かせた。

担任の教諭(49)は「病室だけでは成長に必要な経験や、教育的な刺激が少なく、知的な発達が遅れていたのだろう。
今では簡単な計算もできるようになった。どんどん能力を伸ばしてあげたい」と話す。

女児は「ロボットが大好き。学校で友達に会えるから」と明るく語った。
丹羽登・関西学院大教授(病弱教育)の話「院内学級などで学ぶ子どもは、気持ちの切り替えができる機会が少ない。
ロボットを操作して登校を実感することでそれが可能になり、学習にも前向きに取り組める」

https://i.imgur.com/VPylsWO.png
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171221-OYTET50018/