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2018年01月08日
真城 愛弓 : 東洋経済 記者

「大きな流行の波は一巡して、ブーツの売り上げは下がり続けていますよ」。こう語るのはある靴専門店の幹部だ。

真冬の女性ファッションの定番だったブーツが、”過去のもの”となりつつある。通勤用やフォーマルな行事向けに一定の買い替え需要が見込める紳士靴やパンプスに比べ、ブーツの売れ行きは流行に左右されやすい。

店頭のブーツは減っている

1990年代後半から2000年代にかけては、20〜30代の女性を中心にロングブーツが絶大な人気を誇り、ミニスカートやショートパンツと合わせて履くニーハイブーツもヒット。2010年ごろになると「UGG(アグ)」を筆頭とするムートンブーツが幅広い世代の支持を受けた。

だが、数年が経つとそれらのブームも次第に落ち着いていった。その後もショートブーツなどの流行商品は出てきたが、かつての勢いを取り戻すには至っていない。

ASBee(アスビー)などの靴販売店を展開するジーフットの営業商品企画本部に所属する渡辺雅則氏は「今はさまざまなスタイルのブーツが出ているが、かつてのような『ブームはこれ』という商品がない。ロングブーツのアイテム数を絞るなど、店頭に並べるブーツの比率は減らしている」と話す。

ブーツが売れない理由の1つが、5年ほど前から続くスニーカーブームだ。ファッションのカジュアル化に加え、ウォーキングや登山の人気も相まって、若い女性や中高年世代の間でも、スニーカーで街を歩くスタイルが広く浸透してきた。こうした流れの中、スポーツ庁も健康増進のため「スニーカー通勤」を推奨するプロジェクトを2018年春から始動する。

節約志向が続く消費環境下にありながら、スニーカーの品ぞろえに強みを持つABCマートは、2018年2月期も過去最高益を更新する見通しだ。靴を中心とした通販サイトを運営するロコンドの田中裕輔社長は、「ニューバランスやナイキなどの高価格帯スニーカーの人気は根強く、子ども用の4000〜5000円のスニーカーも好調だ」と述べる。

矢野経済研究所の調査によると、国内の靴・履物小売市場は過去10年間、1兆4000億円前後をほぼ横ばいで推移してきた。ただ内訳を見ると、2005年度は市場全体の32.1%を占めていた婦人靴が、2015年度は24.7%に減少。一方、スポーツシューズの構成比率は10年間で32.8%から43.8%にまで拡大しており、婦人靴はスニーカーの勢いに押されている状況だ。

「履きやすさ」が重要に

スニーカーブームの影響も受け、最近は婦人靴の中でも「履きやすさ」を重視する傾向が顕著になった。「昔、ファッションは我慢と言われたが、今は楽な履き心地が求められる。見た目はパンプスでも、スニーカーのような履き心地を実現した商品は婦人靴の売れ筋となっている」(ジーフットの渡辺氏)。

シュープラザや東京靴流通センターを運営するチヨダが2017年2月に発売したオリジナル商品のパンプス「fuwaraku(フワラク)」は、柔らかい中敷きクッションを入れるなど、楽に歩ける機能性を追求し、大ヒット商品となった。

ジーフットでも、「楽に履けてきれいに見える」をコンセプトに、複数のデザインを取りそろえたパンプス「らくらくビューティー」シリーズが足元で好調に推移している。

これらのパンプスが婦人靴売り場で存在感を高める一方、足を覆う面積が広いブーツは、楽な履き心地を求める消費者のニーズと合致しづらい点も、売り上げが伸び悩む一因になっているようだ。

もちろん流行が完全に消えたわけではなく、トレンドへの感度が高い一部の層では、ニーハイブーツなどの人気が復調する兆しもある。ただ市場全体では、履きやすく疲れにくい機能性を重視する傾向が強まっており、ブーツ復活への道筋は当面見えそうにない。