課徴金処分の流れ
https://lpt.c.yimg.jp/im_siggRgFqxYkFOd7pwmsz39uqpA---x900-y790-q90-exp3h-pril/amd/20180115-00000048-mai-000-view.jpg

金融庁の金融審判で不正取引を認め、法人や個人に命じられた課徴金を裁判で取り消せるか−−。この点が争点となった行政訴訟が東京地裁で進んでいる。違反認定に不服がある場合は通常、まず審判の審理で争い、敗れると訴訟に移る。今回は審理を経ずに、いきなり提訴という言わば「抜け道」の手法で、国側は「制度の空洞化につながりかねない」と当惑している。

 提訴したのは、東証マザーズ上場のソフト開発会社で元社員だった男性。証券取引等監視委員会は、男性が他社との業務提携の公表(2015年12月)前に、約1118万円分の自社株を購入した行為がインサイダー取引に当たるとして、課徴金約1228万円の納付を命じるよう金融庁に勧告した。男性が違反を認めたため審理を省略し、同庁は昨年3月、課徴金納付命令を出した。

 ところが、男性は4月になって国を相手取って命令の取り消しを求めて提訴。「(命令時に)会社を退職しており、違反を争う材料がなかった」と主張し、同庁にインサイダー取引の証拠を出すよう求めた。命令の取り消しを求める行政訴訟に発展したのは、課徴金制度が始まった2005年から昨年12月までに計20件あるが、審判で争われなかったケースの提訴が明らかになるのは初めてとされる。制度上、審判の審理を経ない提訴は禁じられていない。

 訴訟資料によると、同庁は請求棄却を求めた上で「審判でやるべきことが裁判で審理されることになる。違反を一度認めており、課徴金の適法性も強く推認される」と主張した。しかし、地裁が証拠を示すよう求めたため、同庁は監視委の調書などを開示した。男性側は「株購入は自社の将来性を見込んだから」などと不正を否定し、地裁が違反の有無を審理する展開となっている。

 男性の代理人弁護士は「私に相談がある前に男性は違反を認めてしまい、故意に審判を避けたわけではない。提訴は適正な手続きだ」としている。【島田信幸】

 ◇争う側「二度手間」不満も

 課徴金制度が始まるまで、インサイダー取引などの違反行為については、証券取引等監視委員会は検察に告発して刑事事件にするしかなく、迅速な対応が課題だった。課徴金は行政処分のため刑事裁判に求められるレベルの厳密な証拠は不要とされ、監視委は積極活用して市場の公正を確保しようとしてきた。

 一方で、金融審判の審判官は、金融庁に出向した裁判官や弁護士が務める。同庁によると、これまでに出た課徴金納付命令は約440件あり、審判で争われたのは約40件。うち「違反なし」は納付命令の0.4%に当たる2件にとどまっており、法曹関係者の中には「金融庁の身内とも言える立場の人に、平等な判断をしてもらえるのか」と疑問を呈する声もある。

 審理には1年以上を費やすこともあり、違反を争っている側には「審判と訴訟は同じ内容で二度手間」との不満もある。今回の提訴は審判を省略させる意図はなかったとみられるが、金融審判の審理が事実上、不要になるという制度の不備が露見したとも言える。【島田信幸】

 【ことば】金融審判

 金融商品取引法に基づき、原則として審判官3人が合議でインサイダー取引や粉飾決算などの有無を審理する。違反を認める答弁書が提出された場合は審判の審理は開かれない。審理は裁判と同様に公開され、金融庁長官が指定した職員が、証券取引等監視委員会作成の調書などで立証する。審判の決定を基に同庁が課徴金納付命令を出すが、不服がある場合は30日以内に裁判所に取り消し訴訟を起こせる。

配信1/15(月) 15:15
毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180115-00000048-mai-soci