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2018年03月06日 06時00分
 漁業者の声には「ゼロ回答」−。国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)を巡り、5日に福岡高裁が示した和解案は、開門によらない基金案を唯一の解決策と示しただけでなく、和解できなければ排水門の開門まで漁業者に支払う「間接強制」の制裁金の返還も求められかねない方向性も出てきた。何らかの前進を期待していた漁業者からは憤りや落胆の声が上がった。

 開門を命じた確定判決の原告の一人、大鋸(おおが)武浩さん(48)=太良町=は「少しは期待していたが、長崎地裁の和解案から何の前進もない」と憤る。「国の100億円基金案を漁協が『検討する』と、揺らいだところを突かれたのではないか。県内の漁業者はあくまで開門調査を求めるという原点に返って一枚岩にならなければ」と力を込めた。

 同じ原告の平方宣清さん(65)=同=は「精いっぱい有明海の現状や漁業者の苦しい生活を訴えてきたつもりだったが、裁判官に届かなかったのかと思うとせつない」と目を伏せた。高裁が示した和解案が「開門しても有明海の環境変化の原因が明らかになる保証がない」としたのを挙げ「100億円の基金案でも成果が出る保証がないことは同じ。営農や防災に差し障らない形での開門調査は可能なはずだ」と訴えた。

 6季連続休漁になっているタイラギ漁の拠点、県有明海漁協大浦支所の弥永達郎運営委員長は「訴訟当事者ではないので和解に関しては推移を見守るしかない」としながらも「対症療法でタイラギが戻らないことは現実として明らか。開門調査で抜本的な原因究明をしなければ有明海再生は望めない」と強調した。

 山口祥義知事は「それぞれの立場で冷静な分析が必要」とした一方、「(開門を命じた確定判決を)履行しないことは極めて問題。開門調査は必要だ」と、従来の県の主張を繰り返した。

=2018/03/06付 西日本新聞朝刊=