春分の日の21日、桜が咲き始めた東京などでも雪が降った。雪が降れば、みんなそれに気づく。一般市民に雪の結晶をスマートフォンなどで撮影して送ってもらい、気象学の研究に役立てよう。2016年度から取り組みを始めた市民参加型の「関東雪結晶プロジェクト」のまとめを気象研究所が22日、発表した。2016年から17年にかけての昨冬に市民から寄せられた雪結晶の写真は1万枚を超え、そのうち7割が研究に使える有効なものだったという。

空気が上昇すると、冷えて、含まれていた水蒸気が氷や水の小さな粒になる。これが雲だ。この氷の粒が大きくなって落ちてきたものが雪。雪の結晶は、雲ができる場所の気温や湿度によって、角柱状になったり、木が枝を伸ばしたような樹枝状になったり、さまざまな形になる。逆にいうと、地上に落ちてきた雪の結晶の形から、その結晶が作られた上空の気象が推定できる。

雪が首都圏で降れば、交通の乱れをはじめとして市民生活への影響が大きい。だが、その予測は難しい。たとえば、首都圏の南岸を低気圧が通るとき、雪が降るか雨になるかは上空の状態が複雑に絡み合って決まる。予測が難しいのは、観測例がまだ不十分で、降雪の仕組みがよく分かっていないことも一因だ。そこで、一般市民の「数の力」を借りて観測例を増やし、首都圏で降る雪の仕組みを詳しく調べようというのが「関東雪結晶プロジェクト」だ。

参加の仕方は簡単だ。落ちてきた雪がきれいな結晶になっているのを見つけたら、スマホで撮影して電子メールやツイッターで送る。100円ショップで売っている接写レンズを使えば、より大きくくっきりと写る。雪の結晶だけでなく、それが雪なのか、雨と雪が交じった「みぞれ」なのかといった情報も、研究に役立つという。撮影のコツや注意点、送り方についての詳しい説明は、気象研究所のホームページ「#関東雪結晶 プロジェクト」にある。

気象研究所の発表によると、2016〜17年の冬に市民から送られた写真は1万枚を超えた。結晶の画像が鮮明で、しかも観測時刻や場所の情報が添えられていた解析に使える写真は、そのうち73%にのぼったという。2016年11月24日に関東に降った雪では、午前8〜9時の時点では「樹枝状」「扇状」の結晶が観測された。それが午前11時〜正午になると、南関東では、結晶の形がおもに「針状」に変わった。これは、雪のもとになる氷の結晶ができた上空の状態が、湿った状態を保ったままで、気温がマイナス20〜マイナス10度からマイナス10〜マイナス4度に上がったことを意味しているという。

最近の科学界には、科学の研究に一般市民も参加する「シチズンサイエンス」の流れがある。この関東雪結晶プロジェクトのように、専門家だけでは手が回らないデータの収集に市民が参加するものや、市民の問題意識を科学者に伝えて、科学そのものの領域を広げていこうとするものがある。市民の側には、最先端の科学に参加している喜びを感じられる利点もある。このプロジェクトを通して、課題も明らかになってきた。ひとつは、人口の多い都市部からは多くの結晶写真が集まるが、2017年3月27日に栃木県那須町で雪崩が発生し、高校生らが死亡した際の降雪では、写真は19枚しか集まらなかった。科学的には、目的とする地域全体で均質なデータが得られることが望ましいが、このプロジェクトに限らず、その点は市民参加型研究の課題ともいえる。シチズンサイエンスのひとつの典型例として、関東雪結晶プロジェクトの今後に注目したい。

https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/03/20180326_01.html
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