ウルシを中心とした森づくりに取り組む石川県輪島市の住民団体が設立二周年を迎える。市内の山に約二百本を植樹して、生育も順調。団体発起人の漆芸家塩多朋子さん(50)は、輪島漆を使った輪島塗の復活に向けて「今、挑戦することに意味がある」と意気込んでいる。(関俊彦)

 団体は「輪島漆『集いの森』」。二〇一六年四月、塩多さんが漆芸家の夫・政喜さん(63)と呼び掛け、漆器職人や地域住民ら十九人でつくった。結成の背景には、名高い輪島塗の産地にもかかわらず、原材料に地元産の漆がほとんどないことへの疑問があった。

 輪島市では現在、年間で約四万トンの漆を使っているが、国内の生産は約一万トンと少なく、大半は中国産。市内では一九六〇年ごろまで、農家が日当たりの良い畑のあぜでウルシを育てていたが、安価な中国産漆が台頭すると、育てる人が減少した。

 市も七〇年ごろ、漆の確保のため、漆器や林業関係者らにウルシの苗木を配り、十三万本の育成に取り組んだ。しかし、頻繁に雑草を刈る手間などが影響し、現在までに残ったのはわずか二千本。三人いる漆かき職人の仕事もほとんどない状況が続いている。

 「ウルシを育てるには、地域の人々に漆が身近なものだと知ってもらう必要がある」。そんな思いで、漆を使ったワークショップや森づくりの必要性を説明する講演会を開催。会員は五十三人まで増え、昨年三月、約五千七百平方メートルの山にウルシの苗木や漆器の木地に利用できるケヤキやアテなども初めて植えた。

 今月二十一日にあった二年目の植樹活動で、昨年植えた苗木の生育を確認すると、五十センチ前後だったウルシはほとんど根付き、八十〜百センチまで成長していた。新たにウルシは植えなかったが、ブナやヒノキなど百本を植樹した。

 県農林総合研究センター林業試験場の小谷二郎さんは「もともとスギが多く植えられていた場所。土壌が肥えて日当たりも水はけもいいので、順調に育つのではないか」と説明。ウルシは十五年ほどで、漆がかきとれる直径十センチほどの幹に成長するという。

 今後は、これまで植樹した木々を管理しながら、ウルシの苗木を育て、希望者に配布する取り組みも進める計画。朋子さんは「多くの協力があって、思い描く森が形になってきた。育てた木や漆で輪島塗を作れるのは、途方もない未来かもしれないけど、少しずつ歩みを進めていきたい」と話している。



中日新聞 2018年3月29日
http://www.chunichi.co.jp/article/ishikawa/20180329/CK2018032902000040.html