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2018年4月10日 16:13 発信地:パリ/フランス
【4月10日 AFP】相手を疑って片眉を上げたり、相手に共感して眉根を寄せたりする能力のおかげで、人間は進化上の優位性を獲得した可能性があるとの研究結果が9日、発表された。

 研究を行った英国のチームによると、眉の可動性が非常に高いことは、言葉を使わない意思疎通能力を人間にもたらしたとされる。この能力は大規模な社会的ネットワークの構築に不可欠であり、こうした社会を築くことで、人間は協力関係を拡大し、生存確率を高めることができたのだという。

 米科学誌「ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション(Nature Ecology and Evolution)」に掲載された論文の共同執筆者で、英ヨーク大学(University of York)のペニー・スパイキンズ(Penny Spikins)氏は「現生人類が他の絶滅したヒト科動物に比べて、仲間とはるかに良好な関係を築くことにどのようにして成功したか、この謎を解くカギが眉だ」と指摘する。

 スパイキンズ氏と研究チームは、眉がある眼窩(がんか)上部の隆起線の眉弓(びきゅう)について、初期人類にみられる顕著な眉弓骨の機能を調べた。調査の目的は、現生人類の眉弓の突出が時間とともに減少した理由を解明することだった。

 一部の先行研究では、初期人類の大型の眉弓が強力なそしゃくに起因する損傷から頭蓋骨を保護する助けになっていたことや、脳頭蓋と眼窩の間の空洞を埋める役割を果たしていたことなどが示唆されていた。

 研究チームは、現生人類とその直系の絶滅した祖先で構成されるヒト族の原始的な一種、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)の化石化した頭蓋骨の眉弓を詳しく調べるために、立体構造(3D)工学解析ソフトウェアを使用した。

 60万年〜20万年前に生きていたホモ・ハイデルベルゲンシスは、現生人類とその近縁種ネアンデルタール(Neanderthal)人との共通の祖先と考えられている。

 研究チームは、英自然史博物館(Natural History Museum)に収蔵されているホモ・ハイデルベルゲンシスの頭蓋骨をコンピューター上で再現し、眉弓の大きさを変えて、さまざまな強さの咬合(こうごう)圧を加える実験を行った。

■眉の発達は約20万年前に始まる?

 その結果、大型の眉弓には、そしゃく時に頭蓋骨にかかる圧力を軽減する作用がほとんどないことが分かった。さらに、ホモ・ハイデルベルゲンシスの平らな脳頭蓋と眼窩の隙間を埋めるのに必要な大きさよりも、その眉弓ははるかに大型だった。

 研究チームは、現生人類の絶滅した祖先では、突出した眉は社会的地位や攻撃性を相手に伝える信号として機能し、後に現生人類のより表現力豊かな眉に移行した可能性があると述べる。

 ヒト族における毛のない額とよく動き、目立つ毛深い眉の発達は約20万年前に始まり、過去2万年間で発達のペースが速くなった。

 論文の主執筆者で、ヨーク大のポール・オヒギンス(Paul O'Higgins)教授(解剖学)は「社会的信号は、人類祖先の突出した眉に対する説得力のある説明の一つだ」と話す。

「眉弓の形状が空間的および機構的な要件だけで決定されたものではなく、汗や頭髪が目に入らないようにするといった眉弓に関するその他の説明もすでに否定されているため、信憑(しんぴょう) 性が高くて有力な説明が社会的コミュニケーションの領域で見つかる可能性があることが今回の研究で示唆される」

 前出のスパイキンズ氏も、人間は眉の動きで複雑な感情を表現したり、他者の感情を読み取ったりすることができると言う。

 素早く眉を上げるのは、気付きを示す通文化的なしぐさであり、両眉を中央に引き寄せるのは、相手への共感を示すものだ。小さな動きで、信用できるか、だまそうとしているかを判断できる可能性もある。「裏を返せば、眉の動きが制限されるボトックス(しわ取り注射)療法を受けた人は、感情を強調したり、他者の感情に共感したりする能力が低下するということが示されているのだ」と説明した。(c)AFP/Emma CLARK

ヒト族の眉弓を調べるために再現された3Dモデル。英ヨーク大学提供(2018年4月9日提供)。(c)AFP PHOTO / UNIVERSITY OF YORK / Paul O'HIGGINS
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