受刑者逃走1週間 空き家1000軒捜索妨げ 広島・向島
毎日新聞2018年4月15日 06時30分(最終更新 4月15日 06時30分)
https://mainichi.jp/articles/20180415/k00/00m/040/155000c

愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者が逃走した事件は15日、発生から1週間を迎える。指名手配された平尾龍磨容疑者(27)が潜伏しているとみられる広島県尾道市の向島(むかいしま)では、広島、愛媛両県警と中国管区機動隊が延べ5000人の捜査員を投入しているが、現在も行方は分かっていない。手入れが行き届いていない山間部の果樹園や空き家が多いという島特有の事情が捜索の障害となっている。

 14日朝、島北部の岩屋山に捜査員が集合した。前日夜、「裏山から物音がする」との情報が近くの住民から寄せられたためだ。現場近くでは靴下やサンダルなどが盗まれ、車上荒らしにあった車からは平尾容疑者の指紋も検出されている。「ついに発見か」。捜査員は色めき立ったが、結局、身柄確保には至らなかった。

 向島は、東西約6キロ、南北約5.5キロ、面積約22平方キロで、人口は約2万2000人。もともと平地が少ない地形の上、農業者が減って放置された果樹園も多く、ヘリコプターからも見通しがききにくい。また島外に移り住んだ人の家など1000軒以上の空き家が点在。捜索には所有者や管理者の許可が必要で連絡が取れない場合は「外観に目立った異常がないか、目視で済まさざるを得ない」(捜査幹部)という。

 平尾容疑者はまだ島内にいるのか。ある捜査関係者は「現在も島の山中か空き家に潜み、逃走を続けている」とみる。付近で現在も窃盗被害が相次いでいること、橋を渡って島外へ出る車の検問が24時間態勢で続けられていることなどが根拠。島から対岸までは最も狭い場所で約200メートルと泳いで渡れそうにみえるが、市向島支所は「フェリーでさえ航路がずれるほど流れが速く考えられない」と否定する。島内では現在、ミカンなどのかんきつ類が収穫期を迎えており、ある住民は「食べ物は手に入りやすいのでは」と話す。

 長引く厳戒態勢は島民の生活に大きな影響を与えている。島内では14、15日に予定されていた自転車周遊イベントが中止に。窃盗被害に遭った後、島外の親戚宅に身を寄せた人もいるという。島北部の集落で自治会長を務める大原正広さん(68)は「こんなに多くの警察官が何日も島内を歩き回るのは初めて。連日のヘリの音で頭が痛くなった人もいる」と顔をしかめた。【李英浩】

逃走20人目、開放的施設裏目に

 平尾容疑者が入所していた松山刑務所大井造船作業場は、塀や鉄格子がなく、居室が施錠されていない「開放的施設」。一般の人と同じような環境で職業訓練や生活をするため、受刑者が社会復帰しやすいとされる。凶悪犯や薬物常習者でないなどの条件を満たす模範囚を対象としている。

 松山刑務所によると、1961年の開設以来、逃走は17件20人目。今回は16年ぶりだった。

 一方で、受刑者が再び刑務所に戻る「再入率」は2008年からの10年間で6.4%。刑務所全体では近年、36%前後で推移しており、同作業場が大きく下回っている。

 松山刑務所の河内睦大総務部長は「開放的という理念からは、今後も鍵や監視カメラなど『物』で縛るのは適当でない。その分、受刑者の心情を把握して『人とのつながり』で逃走を防ぎたい」と話している。【中川祐一】
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※島内で確認された窃盗被害と平尾容疑者の痕跡
https://mainichi.jp/articles/20180415/k00/00m/040/155000c