◆安倍退陣後は岸田禅譲内閣へ「二階副総裁、菅幹事長の人事手形も」

「先生の発する言葉は心の奥にまで響くすごみがありました。今に続く自公政権の礎を築いてくださった」

4月14日、京都市内で開かれた野中広務元幹事長(享年92)の「お別れの会」で安倍晋三首相は、政治信条では対極に位置した故人をしのんだ。
参列した村上誠一郎元行革相は涙を浮かべて筆者に語った。

「安倍さんは野中先生の気持ちを理解しているように思えません。本当に心の奥まで響いたのか。
最近の政治家の言葉には相手を思いやる気持ちや惻隠の情が全く感じられない。
安倍さんや麻生(太郎財務相)さんは自分の責任を放棄して公務員の責任にして逃げている。
最高責任者としてあるまじき行為だ。一日も早く即刻退陣すべきだ!」

自民党が4月上旬に実施した次期総選挙の独自調査では、政権への逆風にもかかわらず、「自民12議席減」にとどまる結果が出た。
安倍・麻生両ツートップも、「辞める気はなく、意欲に衰えはない。最大派閥の細田派、第2派閥の麻生派が結束し、安倍3選の方針に変わりはない」(官邸幹部)という。

政権中枢も今後の政権運営について、巷間伝わっている「解散・総選挙」や「内閣改造」で野党にブラフ(脅し)をかけるべく、「(政権寄りの)メディアに情報をリークした」と打ち明ける。
そのうえで、・14年ぶりの日朝首脳会談を実現・省庁再々編で財務省の組織改編・消費増税の3度目の延期アナウンスを前倒し・天皇退位に絡む新元号発表など皇室の政治利用・来年のラグビーW杯の日本開催による国威発揚
──これらの政治スケジュールで、「安倍首相が悲願とする憲法改正を描いていた」(同)と語る。

官邸関係者も「得意の外交が最大の焦点になる。だが、セクハラ財務事務次官は、昨年離党を余儀なくされた『ハゲー・パワハラ発言』の豊田真由子前衆院議員ぐらい、創価学会婦人部など女性への印象が極めて悪い。
外交得点が挙げられず、永田町用語で『岩盤』と言われる『支持率30%』を割ると、安倍3選は確実にない」と見る。

この関係者によると、安倍首相自ら「乾坤一擲」と期待値の高い肝心の拉致問題解決を含めた水面下の日朝交渉では、「さまざまなルートを通じても、依然いい回答は返ってきていない状況」という。
「つまり、改憲できない=内閣総辞職に追い込まれる」と解説する自民党重鎮によれば、「ポスト安倍」の党の幹部人事について、「改憲を主導してきた高村正彦副総裁を二階俊博幹事長へ交代。
後任幹事長に菅義偉官房長官を充てる。
官房長官には総裁選のカギを握る竹下派の加藤勝信厚生労働相を充てて恩義を売り、麻生氏は相次ぐ財務省の不祥事により辞任必至でしばらく蟄居するが、事実上のキングメーカーになる。既に岸田文雄政調会長への禅譲を最優先に人事手形が打たれた。
場合によっては、石破茂元幹事長でもいい。皆、ポストと利権が欲しいだけだ」と明かす。

憲法9条改正に長年反対し、学生団体「SEALDs(シールズ)」などとともに官邸や国会周辺でデモに参加し続けている都内の教員、野本直見さん(64)は、「とっくに安倍政権は真っ黒とわかっている」と語気を強める。
続けて、「国民をないがしろにして、党利党略と保身だけで権力を持つ政治家を破壊したい。
そのためには、私たち国民も、ちゃんと声を上げるべきだと思います。
この国の政治レベルは(主権者レベルも)低すぎますね。もう少し誇りの持てる国に住みたいものです」。

前に触れた野中氏のお別れの会では、「戦前の大政翼賛会のようにならないでください!」という、野中氏を全国区に押し上げた沖縄米軍基地使用を継続する法案可決に先立ち発言した97年4月の衆院本会議演説がビデオ映像で流された。
「まさに今の自民党の状況を予言しておられた」(村上氏)。
野中氏は生前、政治資金集めのパーティーを一度も開かなかった稀有な存在だったが、もうこの世にいない。

国民に蔓延する白けた政治不信。劣化する議員。
正義を錦の御旗に、批判に終始する危機感のないメディアの端くれとして、政治家のうそ偽りのない「言葉」に真剣に耳を傾けたい。

AERA 2018.4.21 12:10
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