◆体内に埋め込んだ機械にワイヤレスで給電するシステムをMITの研究者らが開発

電子機器へワイヤレスで給電するワイヤレス電力伝送の仕組みは、スマートフォンなどのデバイスで実用化されています。
MITの研究者らはこの技術を使い、動物の体内に埋め込んだ機械に対してワイヤレスで給電するシステムを開発しました。

Wireless system can power devices inside the body | MIT News
http://news.mit.edu/2018/wireless-system-power-devices-inside-body-0604

従来、体内に埋め込んで駆動するタイプのペースメーカーを始めとする機器は、機器そのものに一定の寿命を持つバッテリーを搭載する必要がありました。
しばらくの間機器を動かすための容量を備えたバッテリーは、機器の大部分を占めるほどの大きさになることもあり、体内に埋め込む機器の小型化にとって大きな障壁となっていたそうです。

MITのファデル・アビブ准教授らの研究チームは、体内に埋め込んだ機器に対して、体内を安全に通過させることが可能な高周波を利用して給電するシステムを開発しました。
研究チームはすでに豚を使った動物実験において、豚の皮膚から深さ10cmの深さに埋め込んだ機器に対し、皮膚から1m離れた距離から発した高周波で電力を供給することに成功しています。
また、埋め込み機器が皮膚の表面近くに設置されている場合、実に38mも遠くからでも電力を供給することができたとのこと。

ワイヤレスで体外から給電可能な埋め込み機器は、巨大なバッテリーを必要としないため、今まで使われてきた機器よりも小型化することが可能。
今回の動物実験では米粒ほどの大きさの機器を使用しましたが、さらに小型化することもできると研究者らは述べています。

これまで、体内に埋め込まれた機器にワイヤレスで電力を供給する技術には、電波が体を通過する際に電波が消散し、埋め込み機器の給電に必要な電力が確保できないという問題が立ちはだかっていました。
この問題を克服するために、研究チームはIn Vivo Networking(IVN)という技術を開発しました。
IVNシステムは、わずかに異なる周波数の電波を放射するアンテナを配列することで、電波が進むにつれて複数のズレた周波数が重なり合っていき、ある一定の範囲で複数の周波数が重なり合って大きな電波を作り出すとのこと。

体に埋め込むタイプの医療機器は、体の状況をリアルタイムでモニタリングして医師に必要な情報を送ったり、治療に必要な薬剤を正しい箇所に伝達したりといった役割を果たします。
IVNシステムを利用した給電方法では、給電すると同時に埋め込み機器に電気信号を送り、特定の動作をさせるコントローラーとして使用することもできるとのこと。

また、体外から体内の適切な部位に電力を伝送する精度が向上すれば、パーキンソン病といった病気の治療法として、脳の適切な部位に電気的または磁気的刺激を送る脳深部刺激療法を埋め込み機器なしで行うことができる可能性もあると研究チームは考えています。
「今回の実験でたどり着いた段階では、まだ対象からの距離と皮膚に埋め込まれた深さにトレードオフの関係があります」とアビブ氏は語っており、今後さらにワイヤレス給電システムを改良していくとしています。
加えて、医療機器の分野以外のRFID技術を用いた無線通信にも、IVNシステムは応用できるかもしれないと述べました。

■解説図
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GIGAZINE 2018年06月05日19時00分
https://gigazine.net/news/20180605-wireless-power-devices-inside-body/